3.商品の本質
もう一度、彼の話(前編の話)を振り返りましょう。当社の顧客であった彼から要請があり、何度も彼と同行営業した体験から推察するに、彼は特別な営業活動をしているわけではなく、取引の枠を広げているだけでした。
マーケティングの実務を請け負っていた頃の筆者に同行を求めるのも、自社製品を売るためではなく、マーケティング全般からみた自社製品の用途を提案するためでした。
たとえば、彼が印刷会社の営業だったとしましょう。決して
「パンフレット作りませんか?チラシはいかがですか?お安くしますよ」
などとは言いません。
一意専心に顧客のマーケティングを手伝っていました。
その中から、ポスターやDMやチラシや応募ハガキ等の印刷の仕事が発生するのです。
商品が印刷ではなく、マーケティングであるため、たとえば応募ハガキの印刷を受注しても、それで終わりではなく、
「ハガキの受付事務局が要りますよね。ハガキをストックしておくスペースも要るし、電話対応のスタッフも要る。何なら私の方で手配しましょうか?」
と、本来の印刷の仕事のみならず、キャンペーン事務局の運営まで請け負ってしまうのです。
もちろん、事務局運営のための費用なり売上が発生するため、彼が稼ぐ売上は、印刷物だけでは実現不可能な数字を記録します。
トップセールスになるのも当然といえば当然なのでした。
彼のごとく
「顧客のために」
と思えば
「こうしたら、どうでしょう?」
という知恵も湧きます。その後で、
「それには幾らかかります」
と見積提示すればいいのです。取引です。
その知恵を出させるために、筆者へ同行営業を求めたわけですが(笑)、当社としても、それによって新しい仕事を受注できる可能性が芽生えるため、願ったり叶ったりでした。
彼にとっても良し、顧客にとっても良し、当社にとっても良し。三方一両得の取引が実現できていたのです。
これぞ彼をしてトップセールスたらしめている要因でしょう。
マーケティングの3Rを実現するのは、日本で昔からいわれている(商売上手な近江商人の)三方一両得なのかも知れませんよ。