ユニクロを分析[3/3]ユニクロの成功はマーケティングの成功

ケーススタディ

ユニクロの成功はマーケティングの成功

【はじめに】
このレポートはユニクロおよびファーストリテイリング社とは無関係ですが、もし、不適切な表現があるとしたら、責は全て筆者にありますので、ご連絡いただければ修正もしくは削除します。
前ページでは、ユニクロの躍進が、フリースのみによるものではなく、顧客価値に重点を置いた、商品の見直しにあると述べました。商品開発です。
商品開発といっても、世の中に無かった全く新しい商品を開発したのではなく、
  • ジーンズ
  • 革ジャン
  • カーディガン
  • 下着
といった従来から存在する服を徹底的に見直しました。

前ページでは、開発の礎となる「お客様が求める価値」について述べました。

商品とは、売上のためにあるのではなく、顧客へ価値を届けるためにあることをユニクロは知っていたのでしょう。

ではレポートの最終回となるマーケティングの成功を御覧ください。

商品 価格 流通 販売の連鎖◇ユニクロの成功はマーケティングの成功

(前ページの続きになりますが)お客様が求める価値とは何でしょう?
それを知るには、ユニクロの主力商品である衣服へ対するインサイト(本音)から考える必要があります。では、

衣服へ対するインサイトとは?

どの店舗へ行っても、男性客より、女性客が多いということは、とうぜん、女性向けの商品が多いということですから、やはり、衣服に関心が高い女性のインサイトに絞って考えましょう。では、

女性のインサイトとは何でしょう?

女性は、財布の許す限り、いくらでも
  • 服を、
  • 靴を、
  • バックを、
  • 帽子を、
  • 下着を
欲しがります。イメルダ・マルコス元大統領婦人の3,000足の靴と、500着のブラジャーを例に挙げるまでもなく、女性の衣服へ対する欲求は際限ありません。では、

女性の欲求とは何でしょう?

一般論として、美ではありませんか?
  • 美しくあることが生きがいであり
  • 美しくあることが勝利であり、
  • 美しくあることが善
で、その具体的な表現方法の一つが、衣服という分析です。
化粧も、整形も、脱毛もそうですが、美を表現する方法に際限はありません。だから女性は、
  • どんなに散財しても、
  • どんなに痛くても、
  • どんなに苦しくても
美を追求します。こだわりは度を越して徹底していて、
  • 涙ぐましいとも、
  • いじらしいとも、
  • 執念深いとも
いえます。しかし、それは外出着の場合であって、

女性が家で着る家着に美しさは二の次

三の次になります。誰も見ていませんから、
  • 着るにしても楽で、
  • 脱ぐにしても楽で、
  • 洗って干すにしても楽で、
  • 収納するも楽という、
徹底的に楽な衣服を好みます。

美より、楽であることが本音

です。家着のキーワードであり、至上の価値。自宅で着るスウェットが典型的ですよね。家でスーツを着る人は(たぶん)いません。

その対極にあるのが外出着。外出着は、
  • 寒くても着る
  • 暑くても着る
  • 苦しくても着る
  • 痛くても着る
  • 家で洗えなくても着る
  • 収納場所がなくても買う
すべては美のために。
家で外出着を着ませんが、家着で(スウェットで)外出することもありません。(近所のスーパーは別。近所のスーパーは主婦にとって台所と同然)

その中間に位置する、家で着られる外出着

となると、ありそうで、ありませんでした。反対に、外出できる家着もありませんでした。
  • 「家で楽に着られて、外出できる服が、あるといいなあ」
  • 「外で着られて、家でも着られる服が、あるといいなあ」
こうした、

相反する欲求が衣服へ対する女性の本音

であり、欲求です。家で着られて、楽で、ちょっと外出するにも、おしゃれで、恥ずかしくない服。

家着と外出着の中間服(インターレベル・ウェア)

です。それが、洋装になって140年間、あるようで、ありませんでした。その中間服を作り出したのが、ユニクロのエポックメイキングだったと考えれば分かりやすいでしょう。この、

女性のインサイトを叶えた中間服

と考えれば、別に、本物でなくとも、伸縮性に富んだ伸びるジーンズがあっても良いわけです。
伸びるということは、耐久性に乏しく
  • ひざが抜けたり、
  • よれよれになったり、
  • 擦り切れやすい
それでも、安いから気軽に買い換えられる。
  • 色違いも欲しかったら、気兼ねなく、2着買える。
  • 買い換えられるということは、財布の痛みを感じずに、流行を取り入れられる。
  • 美の追求という欲を満たせて嬉しい。楽しい。
見た目はジーンズ。しかし、生地は、デニムのようで、厳密には、デニムに非ず(だから安く提供できる)
見た目はジーンズでも、デニムではないので、家で着て楽ちん。それでいて、見た目はジーンズだから、ちょっと外出することも可能。こうした中間服を開発したのがユニクロです。さらに、

ユニクロへ行けば買いたい欲(購買欲求)を満たせる

これもユニクロが提供する価値です。女性は流行に敏感ですから、流行を提供するということは、定番商品、つまり、在庫を抱えずに済む。

在庫が無い

ということは、その流通コストを価格へ反映できる=安くできます。
しかし、在庫が無いということは、安定供給しにくい弱点があります。
「買おうかどうか迷っていたら、売り切れちゃってて残念だった」
との声もあるでしょう。その

弱みを強みへ変える逆転の発想

で、在庫を掃くためのバーゲンやセールが可能。女性がバーゲンに弱いのは、今も昔も同じ。そうすると
  • 「売り切れないうちに買わなくちゃ」
  • 「いつ無くなるか心配だからいま買っちゃおう」
という購買動機を植え付けられます。それを促進するのが、

時間的差別価格

です。タイムセールといえば分かりやすいでしょう。
平日と土日の価格が1,000円も異なる商品を限定販売。当然、土日に買いに行くことになります。
それでは平日に買わなくなると思われますが、前述の

購買動機が作用し、平日でも下見

に来店します。女性にとってショッピングは狩り。狩り場の下見下見とはいえ、

来店してしまえばユニクロのもの

で、
  • 「無くなるかも」
  • 「他の人が買ってしまうかも」
との焦りが購買を促進します。
  • 「土日まで待てない」
  • 「今すぐ欲しい」
とのパニック・バイイング(衝動買い)も起こります。見事なまでに、

商品と、価格と、流通と、販売が、連鎖

していることがわかります。マーケティングの4P'sです。ユニクロの成功は、マーケティングの成功でもありました。

ユニクロは、楽しさも提供

ユニクロは、楽しさも提供しています。どの店舗も、ドレッシングルームの数が多いので、待たずに、何度でも、試着できます。もちろん、無料。
試着は、女性にとって、楽しみなエンターテイメント。男性には理解できないかも知れませんが、これが、ネット通販などの

通信販売には真似のできない優位性に

なっています。また、ユニクロの店舗スタッフも活き活きとしていて、接客態度が自然で、自発的な明るさがあります。おそらく、ユニクロのイズムが浸透しているのでしょう。たとえば、
  • ユニクロで働いていたといえば、どこでも採用される人材になる
  • ユニクロを辞めても、どこへ行っても通用する、接客のプロになる
  • 会社のためではなく、自分のために仕事する

という教育なのかも知れません。嫌々では、あの自然な明るさを作り出すのは難しいでしょう。

さて、主題は尽きました。以下、余話として。

ユニクロの弱点「ユニクロは国民服」が海外で通じる?

ここまで、ユニクロの長所ばかり取り上げてきたため、ユニクロの回し者と思われては心外につき(笑)、ユニクロの弱点を挙げて、レポートを締め括りましょう。

前述の通り、日本人には、家着と、外出着を分ける習慣があります。

波平(サザエさんのお父さん)も、帰宅すると、丹前(浴衣?)に着替えます。

この習慣は、玄関で履物を脱ぐ日本ならではの畳文化が背景にあります。

一方、欧米、南米、中近東、アフリカ諸国、オセアニアでは、靴のまま家へ入り、カウチに座り、ベットに寝転びます。

もし、ユニクロのエポックメイキングが、筆者分析の通り、インターレベル・ウェアだとすると、外出着と家着の区分が曖昧な諸国で、ユニクロは、受け入れられにくいかも知れません。

ユニクロは、英国、中国、米国、香港、韓国、フランスと海外進出してきましたが、日本のような大成功を収めているのでしょうか。(ブランド化を目的に出店しているのであれば話は別ですが)

日本は、他国の文化を取り入れて改良し、似て非なるものに仕立て上げるのが得意で、それを、国民も、すんなり受け入れます。

一方、他国は、頑(かたく)なに伝統を守ります。ウィスキーを守るため、ウイスキーを作る法律があるくらいです(日本は酒税法のみ)

そう考えると、ジーンズでありながらもジーンズではないジーンズの価値が、他国民に認められるでしょうか?

それに加え、日本人は、自分だけ突出するよりも、周囲と同じ価値を好みます。そうした日本と他国の文化の違いを踏まえて考察すると、柳井会長兼社長が仰る「ユニクロは国民服」が海外で通じるでしょうか。文化の壁を乗り越え「世界服」になっていくかどうか、これからも観察させて頂きます。

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