ユニクロを分析[2/3]新しい価値の製品を自社の流通経路で独占販売

ケーススタディ

新しい価値の製品を自社の流通経路で独占販売

【はじめに】
このレポートはユニクロおよびファーストリテイリング社とは無関係ですが、もし、不適切な表現があるとしたら、責は全て筆者にありますので、ご連絡いただければ修正もしくは削除します。

新商品の開発のようで、じつは、従来品の改善

前ページでは、

ユニクロの躍進が、フリースのヒットのみならず、顧客価値(カスタマーバリュー)に重点を置いた商品の見直しにあると述べました。商品の開発のようで、じつは、商品の改善です。

前ページを御覧になっていない読者さんのために、短くおさらいしますと、従来からのジーンズは、鉱夫や農夫むけに作られた作業服で、耐久性に優れていました。

耐久性に優れていたればこそ、ヴィンテージと呼ばれる高額な古着の市場が成り立ちます。これを足し算にあてはめると

商品(ジーンズ)=デニム生地の衣服+価格(5,000円~)+価値(ファッション)+価値(耐久性)

になりますね?つまり、

着る人(ユーザー)ありきではなく、服(商品)ありきの発想

です。ファッショナブルで耐久性に優れた服(価値)が、5,000円~という価格のジーンズでした。
一方のユニクロは、
「今の日本のジーンズは、作業用として履く人もいるが、それとは別に、一般人が、ファッション衣料として着ている。ならば、日常生活に作業用の耐久性は必要なし」と、

耐久性を捨てることにより製造コストを下げ価格も下げ

「長持ちしなくても、安いから、何本でも買い換えて、ファッションを楽しめる」という価値のジーンズを開発し、自社店舗で販売しました。この流通および商品コンセプトが受け入れられた事実は周知の通り。

それに、安いとはいえ、たとえば

  • 10,000円のジーンズを、10年はくのも
  • 2,000円のジーンズを、10年で5本買い換えるのも
同じこと。ユニクロの懐には、有名ブランドのジーンズと同等以上の利益が入ってきます。更に、
  • 時の流れにあった流行のジーンズに買い換えられて
  • 新品なのに従来ブランドの半額以下
となれば、一本2,000円のジーンズが売れるのは自明の理。さらに、自社で作って自社で売るSPAというと聞こえはいいけれど、

新しい価値のジーンズを自社の物流・流通経路のみで独占販売

しているようなもので、儲かるはずです。
このジーンズを、先の足し算にあてはめると、

商品(ジーンズ)=デニム生地の衣服+価格(2,000円)+価値(ファッショナブル)

で、耐久性という価値が差し引かれています。なぜならば、

農夫ではないユーザーがジーンズへ求める価値に耐久性は不必要

だからです。そのぶんの製造コストを下げ、流行に合わせて買い換えられる安いジーンズに、ユーザーは価値を求めていることをユニクロは知っていたのでしょう。知っていたというよりも、

リサーチで知った

のでしょう。地方の中小企業に過ぎなかった頃でさえユニクロは、顧客の意見に、数百万円の価値があることを知っていました。
だからこそ、クレームコンテストを開催したのでしょう。それが、単なる中小企業で終わる会社かどうか?の違いだったのかも知れません。

ユニクロは、衣料品(たとえばジーンズやフリース)を安く売って成長した会社ではなく、

顧客が求める価値に応える商品を開発し、製造し、販売する

製販在一体の企業でした。

それ(顧客の求める価値)に応えたところ、安い商品ができました。

先に安さありきではなく、結果として価格破壊しただけ。

あなたが扱う商品も、ジーンズのように、
  • 昔からある商品だったり、
  • 競合他社と価格競争している商品

だとしたら、大チャンスですよ?ヒントは、ユニクロが教えてくれています。

  • その商品は、ジーンズのように、顧客の求める価値に徹底的に応えているでしょうか?
  • 顧客の声に耳を傾け、見直せる部分を探し出して、改良しているでしょうか?

もしかしたら、今の自社商品より、もっと別なところに、顧客の求める価値が眠っているかも知れません。それは、柳井会長兼社長が回想するところの、

  • 「クレーム・コンテストへ応募のほとんどは、漠然と気づいていたことだった」
  • 「しかし、実際に“ここが悪い”“こう直してほしい”と、いわれてみないと実感できなかった」
  • 「その上で、出来ることと、できないことをはっきりさせることで、具体的に改善できた」

というように、画期的な商品の誕生は、足元を照らすところから始まることもあります。おそらく、顧客意見(アンケート等)には、無理難題が多かったでしょう。

大ヒットしたフリース衣料も、ジーンズと同様の考え方に立脚していたものと考えられます。「顧客が求める価値に応える」という考え方です。
たとえば、冬服ですと、
  • 暖かくて、
  • 軽くて、
  • 安くて、
  • 洗濯機できて、
  • 乾きやすくて、
  • ダメになっても惜しくなくて、
  • 外出するのにも恥ずかしくない
そんな冬服。
「そんなモンあるかい!」で終わってしまうのは、マーケティングとは無関係な人。しかし、

マーケティングの実務は「可能性を探す仕事」

と何度もメルマガ等で述べてきた通り、マーケティングの業務は、無理難題の答えを探す仕事です。

これは、マーケティングの現場で、顧客から、マーケティングを教えてもらった筆者の実感です。

マーケティングの現場は、十中八九ダメだらけです。ひどいモンですよ(笑)、決してカッコいい仕事じゃありません。

売れる商品なんて、簡単にポンポン生まれません。簡単に生まれるなら、倒産する会社なんてありませんよね?

だから…と諦めてしまいそうな無理難題の前に屈するのは誰でもできます。

屈した者は敗者と呼ばれます。

屈することなく、一割か二割の可能性を、草の根をわけてでも探し出すのがマーケティングの実務。

一割二割どころの話ではなく、千三つと呼ばれるように、1,000に3つかも知れません。

そうした現実の中、もしかしたら、ユニクロのスタッフ達は、素材メーカーや化繊メーカーを訪ね回り、フリースにたどり着くまで、ずいぶんと苦労したかも知れません。いずれにしても、まず

フリース素材ありきではなかった

ことは確かでしょう。素材ありきだとしたら、他メーカーもフリース衣料を作っていたはず。ですよね?

昔の私事で恐縮すが、マーケティングの実務を請け負っていたころの筆者も、メーカーのマーケティング担当者と一緒に、製品コンセプトを実現できそうな素材を探して(衣料ではありませんでしたが)いろいろな素材メーカーを訪ねたことがありました。

その経験からすると、そう簡単に、商品コンセプトを実現できそうな素材を見つけるのは難しいどころか、存在しない場合が多く、仮に、開発してもらうにしても、さらなる難題が待ち受けています。

マーケティングの現場とは、そうしたものです。

ユニクロのスタッフ達も苦悩の日々が続いたはずです。

しかし、その結果、フリース衣料という画期的な商品の開発に成功し、ユニクロ飛躍の原動力となった事実だけは動かしがたい事実。はたして、

  • 商品とは何か?
  • 何のために存在するのか?
  • 売上のためか?
  • 顧客へ価値を届けるためか?
  • 給料を稼ぐ仕事のタネか?

その考え方は、人それぞれでしょうけれど、ユニクロは、顧客へ価値を届けるものが商品だと考えていたように分析します。

それは、筆者が唱える付加価値マーケティングの「商品とは何か?」の答えと奇しくも同じで、

商品=価格+価値=物質(+用途)+本質=解決+欲求

並べ替えると、

欲求+解決=本質+物質(+用途)=価値+価格=商品

となります。

価値に、価格が付けば、商品になります。たとえ、価値がゼロの石コロさえ、価格が付けば、商品になります。

しかし、価値がなければ、売れません。

ユニクロの例で分かる通り、商品は、会社の売上の為に存在する以前に、顧客にとっての価値そのものであり、価値は、顧客の欲求は何か?から始まります。

マーケティングの実務家ならば、その工程を知っているハズで、なぜなら、マーケティングは、リサーチに始まり、リサーチに終わるからです。では、あなたにとって、商品とは何でしょう?

  • 売上を稼ぐためのもの?(自分のため?)
  • お客様へ価値を届けるもの?(顧客のため?)

ユニクロは、顧客へ価値を届けるのが商品だと考えていたのかも知れません。その先にエポックメイキングが秘められていました。その、エポック・メイキングとは?

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