ユニクロを分析[1/3]お客様を切り捨てる?弱みを強みに活かす逆転の発想

ケーススタディ

【はじめに】

このレポートは、ユニクロおよびファーストリテイリング社とは無関係ですが、もし、不適切な表現があるとしたら、責は全て筆者にありますので、ご連絡いただければ修正もしくは削除します。

なお、
この記事は、サイト運営者のマーケティング分析によるもので、ファストファッション各社の市場、競合、特性、ポジション等には触れず、もっぱら「従来品の再開発による成功」を主題に取り上げておりますことを予めご了承ください。

≪目次≫

【1/3ページ】お客様を切り捨てる?弱みを強みにする逆転の発想(このページ)

  • わずか25年の急成長、実質10年足らずで上場企業へ
  • 業界の常識を破壊したユニクロのエポック・メイキング
  • ターゲティング◇お客様を切り捨てる新商品の開発
【2/3ページ】新しい価値の製品を自社の流通経路で独占販売(次のページ)
  • 新商品の開発のようで、じつは、従来品の改善
  • 新しい価値のジーンズを、自社の物流・流通経路のみで独占販売
  • 顧客が求める価値に応える商品を開発し、製造し、販売
  • マーケティングの実務は「可能性を探す仕事」
【3/3ページ】ユニクロの成功はマーケティングの成功(最後のページ)
  • 商品 価格 流通 販売の連鎖◇ユニクロの成功はマーケティングの成功
  • 女性が家で着る家着に美しさは二の次
  • 相反する欲求が衣服へ対する女性の本音
  • ユニクロへ行けば、買いたい欲(購買欲求)を満たせる
  • ユニクロの弱点「ユニクロは国民服」が海外で通じる?

実質10年たらずで上場企業へ

ユニクロの急成長は周知のところで、わずか25年前に(この記事は2009年に発行したメールマガジンの転載です)小郡商事が地元の広島に「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」を開店したのが始まり。

わずか25年というより、実質10年足らずで、ユニクロは、売上高6,000億円に迫る上場企業に成長し、柳井会長兼社長は、日本一の富豪として、フォーブス誌に掲載されました。

いったい、ユニクロ躍進の原動力は何だったのでしょう?

まず真っ先に挙げられるのは、
  • フリースのヒット
  • 低価格・高品質
  • 製販在の一体化(SPA=商品企画→製造→物流→販売)
ですが、フリースがヒットしただけで、これほど急成長するでしょうか?その奥底に潜むものは何か、このサイト独自の視点で調査・分析してみたところ、ユニクロの成功要因が見えてきました。
  1. 早い…ほしい品物がすぐ手に入る全国500の店舗網と、ネットショップ
  2. 得…タイムセール。差別化価格
  3. 安い…低価格
  4. 比べる…従来品と比べて分かる良さ。ライバルは、古い価値
  5. 楽…伸縮性に優れた着心地。服ありきではなく、着る人ありきの商品開発。
  6. 便利…自宅で洗える。買い替えられるetc.
  7. 上手い…高品質
  8. 楽しい…待たずに何度でも着替えられるドレッシングルームの充実(数の多さ)

と、少なくとも8つが揃っていることがわかります。

一つ一つは「なぁ~んだ」という程度のことのように見受けられますが、さにあらず。

たとえば、ユニクロのカシミア衣料は、自宅で洗濯できるそうです。一般常識では、高価なカシミア衣料を、自宅で洗うなんて、破壊行為でした。しかし、ユニクロは、それを可能にしました。

業界の常識を破壊したユニクロ

高級品のように、いちいちクリーニングへ出さなければならない衣服を買うのは躊躇してしまうものですが、自宅で洗えるとなると、買いやすくなる=売れるのは自明の理。カシミアひとつとっても、ユニクロは、

衣服の業界の常識を覆した

といっていいでしょう。決して、フリースだけが画期的な商品ではありませんでした。

カシミアのように、高くて当たり前な服をケタ外れに安く販売しています。

その安さたるや徹底的で、今ある商品を、単純に、安売りしているだけではありません。

商品の再開発による価格破壊

です。たとえば、2009年秋、ユニクロは、革ジャンを¥5,000~¥8,000で売り出しました。

革ジャンの慣習値段といえば、

  • 3万4万は当り前
  • 8万でも9万でも常識内

それがたったの¥5000台!と、異常な安さ。しかし、革といっても、正確には新素材のレザーで、ユニクロは「ネオレザー」と称しています。

レザーとはいえ、従来からのレザーと異なり、本革に近い質感の合成皮革。新しい素材の提案です。新素材ですから、もちろん、

本物の革より安くできる

からくり。ジーンズも、2,000円台。従来品の価格(5,000円~)に慣れたジーニストにとって、ウソのような安さ。

もちろん、ただ単に、ジーンズの価格を下げただけはなく、2,000円台で安く売るためのジーンズを開発しました。新商品の開発です。

ターゲティング◇お客様を切り捨てる新商品の開発

革ジャンにしても、ジーンズにしても、ユニクロは「長持ちしません」と明言しています。

(レポート後編と連動しますが)革ジャンやジーンズに必須ともいえる耐久性を捨て去ることで「余分なものが無いから安い」との強みへ転換しています。

さらに、耐久性が低い弱点を、「何度でも買い換えて、ファッションを楽しめます」との強みへ転換しています。

ターゲットは、皮ジャンユーザーのライダーや、農家のファーマーではなく、

ファッションとして着る大多数のユーザー

です。確かに、
  • ライダーにとって革ジャンは防護服ですし、
  • ファーマーにとってジーンズは作業服
ですから、耐久性は必須ですが、それ以外の(ファッションとして着る)ユーザーにとって、耐久性は必要ありません
本革である必要もなく、革っぽく見える合成皮革で充分どころか、かえって軽くて良い。重い本物を、軽い偽物にすることで弱みを強みへ換えました。

つまり、ライダーやファーマーに買ってもらわなくても、ファッションとして着る大多数のユーザーに買ってもらえば、薄利多売の市場が成り立ちます。

しかも、ファッションとして着るユーザーは、多種多様なジーンズを、流行にあわせて買い換えて楽しみたいもの。「長持ちしません」ということは、その

買い替え需要を満たす

ことができます。低価格だから、耐久性が低い。その、耐久性の低さという弱点を強みにした逆転の発想でした。マーケティングに照らし合わせてみましょう。たとえば男女別のように、

消費者の属性が異なれば、価値も異なる

のは当り前。男性にとって価値あるレコードにしたところで、女性にとっちゃ、単なるゴミ。

本来、ライダー用に開発された衣服であっても、ライダー以外が着るとなれば機能性が失われても問題ありません。ならば、革ジャンに見えるレザーであっても良いわけです。

そうなると、本来、革ジャンのユーザーだったライダーを切り捨てることになります。

このセグメントが画期的でした。

お客様で当たり前だったライダーやファーマーを切り捨てる商品の開発です。

耐久性を捨て、その代り、耐久性をもたせるために必要だったコストをカットし、安さで選べるようにすれば、

ファッションとしての革ジャンを求めている人のウォンツ

に合います。そもそも、ライダーでなくたって、革ジャンを着てもいいわけです。その、当たり前の視点をユニクロは見逃しませんでした。おそらく、顧客の意見に耳を傾けているからでしょう。

ジーンズにしても、破れにくいのが永遠の価値ではなく、ユーザーや用途が異なれば、破れやすくて構わないことになります。
もともとジーンズは、テントや荷馬車の幌を作るキャンバスの頑丈な帆布を使って作った鉱作業用の野良着でした。
発祥が野良着であっても、ジーンズをファッションアイテムとして着るユーザーにとっては、野良作業するわけではありませんから、頑丈な作りでなくとも、カッコよければ良いのです。

頑丈を捨てて、生地を薄くし、たとえ耐久性に欠けても、そのぶん安くすれば喜ばれる

すなわち、売れるのは当たり前の話でした。このような、商品と連鎖した価格の常識破壊がユニクロ躍進の原動力の一つであることは確かでしょう。
価格が、顧客の価値に基づいていることも分かります。

ファッション重視の顧客にとって、ジーンズの価値は

耐久性ではありませんでした。ならば、その耐久性という価値を捨て去ることで、売価を下げられます。価値を捨てるということは、

その価値(耐久性)を求めている顧客を捨てる

ということになります。ジーンズでいうところの、農夫や農夫といった作業者をお客様から切り離すということです。

商品とは、売上を上げるためにあるのではなく、お客様が、価値を受け取るためにあることを、ユニクロは分かっていたのかも知れません。

道理で、お客様は商品を買っているという常識の上にあぐらをかいていた業界人が、青ざめるはずです。

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