冷やして食べるという新しい食べ方の用途提案
日清食品カップヌードルを、食べたことのない人はいても、知らない人はいないでしょう。
日清カップヌードルといえば、フレーバーラインナップといい、グローバルマーケティングといい、プロダクトアウト・マーケティング※の教科書のような存在です。
解説1※プロダクトアウト・マーケティング
売る側が「作りたいもの」「作れるもの」を作って売るマーケティング
現在の日清食品は(どん兵衛の商品開発を機に75年、マーケティング部を新設して)、マーケットイン・マーケティング※の教科書のようなメーカーに変貌しました。
解説2※マーケットイン・マーケティング
買う側が「買いたいもの」「買えるもの」を調べて売るマーケティング
その日清食品が、2012年の夏、カップヌードルに氷を入れて食べるという、新しい食べ方を提案しました。マーケティングの王道『用途提案』です。
氷を入れて食べるカップヌードルに「アイスカップヌードル」という名称まで付けてしまう徹底ぶり。
食してみたことのある方々ならば、ご存じの通り、ユニークな食べ方ではあるものの、美味しい食べ方では(失敬)ありません。
ユニークだろうと、おいしくなかろうと(失敬)、その食べ方を、カップヌードル誕生から約半世紀もの長い間、競合他社でさえ気づかなかった(気づいていたとしても、世に出てこなかった)のが現実。
しかし、日清食品は、そのユニークな食べ方に気づき、用途提案へと磨き上げ、巨額の広告費をかけて世に問うた。そこが凄い。
考えるだけなら、誰でも出来ます。しかし、動くとなると、誰にでも出来ることではありません。
さすがは、提案型を自負する日清食品。
ネットでも話題になって、WEBマガジンや、たくさんの個人のブログに取り上げられていますので、ご存知ない方々は、アイスカップヌードルで検索してみて下さい。
5I(ファイブアイ)ルール/5I(ごあい)の法則
マーケティングの王道「用途提案」といっても、なにも難しくありません。
食品の用途提案は、乾物等の袋の裏に、よく書かかれてありますね?
「味噌汁に。和え物に。酢の物に」等々一度は見かけたことがあるでしょう。
- 花束やワインは「お祝いに。誕生日に。贈答用に。想いを伝えるために」等々
- ビデオやカメラは「旅行に。子供の成長記録に。ビジネスのメモ代りに」等々
あちこちにありふれています。
要するに「このように使えますよ」と、用途を提案すること。
用途提案によって「あ、そうか。そりゃいい」と気づかせて購入を促す仕組み。
それら誰にでも思いつきそうな用途提案に対し、アイスカップヌードルが一線を画しているのは、
- 氷を入れるだけというシンプルなアイデア
- お湯で温かく食べるカップヌードルを、氷で冷たく食べるという正反対のインパクト
- 興味をそそる、珍しい食べ方
- レシピ(レシピというほどではありませんが、作り方をTVCMで放映中)
- 思わずやってみたくなる楽しさ
という5I(ファイブアイ)ルールが揃っていることです。
5I(ファイブアイ)ルール、または、5I(ごあい)の法則とは、
- Idea(アイデア)
- Impact(衝撃)
- Interest(興味)
- Information(情報)
- Impulsion(衝動)
以上5つの頭文字Iのことで、商品名や会社名などのネーミングを勘案する際にも用いられます。
5Iルールに則った用途提案となると、チョチョイのパッで思いつくレベルではありません、寝ても醒めても考え続けているうちに閃く。そんなものです。
おそらく日清食品には、考える風土が根付いているのでしょう(大企業ですから、中には、発議を抑えつけて現状維持を図る上司もいるでしょうけれども)
カップヌードルの逆襲
戦略眼に乏しい人は「それでナンボ儲かったんじゃ?」と短絡的に考えるかも知れませんし、この用途提案で「いくら儲かりました」と日清食品は発表していません。
問題は、現状を維持するだけでは(PEST分析のような不可抗力によって)売上は落ちるという事実。
事実その通り、日清カップヌードルは、2008年、原材料費の高騰による値上げで、売上高が52%も減ったそうです。売上が半減するなんて、並の企業なら倒産の危機です。
2011年には希望小売価格を設けました。事実上の値上げで対応する他なかったのでしょう。
しかし、値段を上げれば、売れなくなって、売上は落ちる。危機また危機の連続です。
では、価格を上げずに、売上を伸ばすには?
この二律背反する命題への一つの答えが用途提案であり、用途提案を創出する企業風土です。
用途提案という新しい価値を創造すべく、マーケティングに取り組む企業風土(社風や教育や社内制度や社内コミュニケーション)なのか?
やらナイ・できナイ・わかろうとしナイという三ナイ悪を土壌とする企業風土(社風や教育や社内制度や社内コミュニケーション)なのか?
ということです。まかり間違っても、
- 「儲かるかどうか分からないことは、しない」
- 「余計なことは、しない」
- 「現状を変えることは、しない」
という風土に染まった企業が、用途提案など思いつくハズありませんよね。
一方の日清食品は、アイスカップヌードルという用途提案で、またしても危機を乗り切りました。カップヌードルの逆襲が始まりました。
(NHK総合「プロジェクトX」より)インスタントラーメンの後発メーカーの乱立と、市場の飽和で、倒産の危機にあった時も乗り切りましたし
(日清食品ホームページより)プロダクトアウトでカップヌードルを開発したはいいけれど、市場に受け入れられなくて、売れなかった時も乗り切ってきました
是この通り、不屈の日清食品は、どんな困難に遭っても、必ずや乗り切ってきました。
その儀型が、アイスカップヌードルという用途提案です。
何度も倒産の危機を乗り越えてきた日清食品は、次なる脅威が現れても、必ず、乗り越えるでしょう。
なぜなら、提案型の企業は、ピンチを、チャンスに代え、逆襲できるからです。
インサイトを突いた用途提案だったアイスカップヌードル
アイスカップヌードルの白眉は、インサイトを突いていたことです。
インサイトとは、本音と建前の「本音」で、自らに偽らざる本心のこと。
暑い時には、冷たいものを食べたくなるのが人情ですし、寒いときには、暖かいものが食べたくなるのが、人間の偽らざる本音です。
そのインサイトをアイスカップヌードルは突きました。
夏であっても、熱いお湯で調理しなければ食べられないカップヌードルに、氷を入れることで、暑い日でも、冷たいカップヌードルが食べられるという、インサイトを突いた提案です。
人は、インサイトという本音で動きます。自分に利があると思ったときに、お金を払って、商品と交換します。
その商品に、インサイトを突いた用途提案を加えることで、あなたの商品は、今よりも売れるに違いありません。