地方を創生するマーケティングで人(観光客より住民)を増やす
(読み終わるまで30分かかります)地方を創生するマーケティング[シリーズ1/10]イントロダクション「戦略と戦術の違い」
マーケティング戦略と戦術を、企業活動ではなく、国や地方自治体による地域活性というユニークな切り口で、ご説明します。
マーケティングの具体的な戦術について、10章で書き下ろしています。
戦術といっても、なにも難しくありません。
一般論としての戦術は、戦略を実現させるための短期的かつ具体的な実現計画のことで、戦略とは、長期的かつ総合的な目標達成計画のことです。
平たくいえば
「全体像はドーなってるの?」
が戦略で、
「具体的にはドーするの?」
が戦術です。
位置関係を把握しておくと分かりやすいでしょう、戦術は、戦略の下に位置します。
マーケティング戦略は、ヒト・モノ・カネを動かす経営のための戦略ですから、経営戦略の下位に位置します。
戦略の集合体が大戦略(社是や経営方針)という考え方に当てはめると
- 経営戦略
- マーケティング戦略
になりますし、階層の入れ替わりとともに、戦略と戦術がスライドする考え方に当てはめると、
- 経営戦略
- マーケティング戦 術
となります。正誤の問題ではありません、どちらの解釈を採るのも自由です。
戦術と戦略をスライドさせる考え方で、マーケティングが、戦略に位置すると、戦術は、
- 商品戦術
- 価格戦術
- 流通戦術
- プロモーション戦術
の4つに絞られ、4のプロモーションが戦略に位置すると、戦術は、
- 広告戦術
- 販促戦術
- 広報戦術
- 営業戦術
の4つに絞られ、4の営業が戦略に位置すると、戦術は(筆者が開発した長期接触営業戦略の場合)
- 初会戦術
- 継続戦術
の2つに絞られます。以上のように、戦略戦術は、体系化できます。
体系化できるため、チーム全員に伝わりやすく、分かりやすく、チーム(組織)で作戦を共有できるようになります。
戦略 > 戦術ですから、たとえば、円柱が戦略だとしたら、円柱を、
- 柱と見るか、
- 丸と見るか、
- 四角と見るか
によって、戦術は変わります。
その切り口が、マーケティングのプロの腕の見せ所です。
マーケティングのプロは、円柱を、柱とは決め付けません。
- 「上から見れば」丸に見える
- 「横から見れば」四角に見える
という具合に多角的に見て考えます。
なぜなら、マーケティングの現場は、可能性を探す仕事だからです。
いろいろな角度から考察して、成功の可能性を探りますから、その現場は、そりゃもう泥臭いものです。
マーケティングというと、経営者や管理職が用いる企業向けのように思われがちですが、切り口によっては、老若男女、誰にでも使えます。
そこで、このコラムでは、マーケティングを、企業活動ではなく、マーケティングとはかけ離れた、地方自治体による地域活性というユニークな切り口で、わかりやすく、ご説明します。
では、ごゆっくり、お楽しみください。読み終わるまで30分かかります。
地方を創生するマーケティング[シリーズ2/10]三井越後屋屋の無料の貸し出し傘
三井財閥の基礎を作った越後屋の三井高利は、雨の日に「越後屋」の店名が入った傘を、無料で貸し出しました。
雨の日になると、越後屋の傘が往来に花咲き、晴れた日には、借りた家々が傘を広げて干しますから、否が応でも越後屋の三文字が目に触れます。
それを今では「優れた広告戦略」と評する方々もいるようですが、おそらく、三井高利は純粋に
「来店したお客さんが、雨に濡れずに帰れるように」
との心くばりで貸し出したのでしょう。店先売りを考案した三井高利らしい配慮です。
現在、傘の無料貸し出しは、全国の商店や、自治体で広く行われています。
傘の返却率は、50%以下だそうです。2本に1本は戻ってこない計算になります。
その返却率に「モラルが低い」と人倫を問う声もあるようですが、貸出しとはいえ、無料にするならば、最初から返却を期待せずに貸出すほうが、無料の主旨に適っています。
返却を望むなら、デポジット(預かり金)制にすればよいのです。
傘が減ったら、なけなしの予算で補充するのではなく、預かったデポで、新しい傘を補充すればいいだけです。
要は、何のために貸し出すか?ということです。
広告として考えるならば、傘代は、宣伝費に相当します。
宣伝費ならば
「広告を見たら、宣伝費を払え」
という企業が皆無のように、借りた傘を返さなければ、モラルに欠けると非難するのは、お門違いでは?
販売促進も然り。
試食キャンペーンで、食べたサンプルを「返せ」という企業が、ドコにありましょう。
そう考えると、デポジットなしの無料で貸し出すならば、返却を期待するのは、性善すぎます。
現実に、図書館で、本を盗んだ主婦が
「盗んでいません。本が、勝手に、カバンの中に入っていました」
と主張するモンスターさえいるくらいです。
住民を疑うつもりはありませんが、そういうモンスターがいることを前提に企画したほうがよいでしょう。
- 返してもらいたいなら、有料で。
- 返さなくてもいいのなら、無料で。
傘にしても、図書館の本にしても、地方公共団体の役務として考えるのではなく、マーケティングのプロモーションとして考えれば、そういう発想になります。
さて、三井高利から約150年後の兵庫にも、傘を無料で貸し出した人がいました。第63代北風荘右衛門です。
家業が呉服屋の三井家とは異なり、北風家は廻船問屋でした。
三井が、
「来店したお客さんが、雨に濡れずに帰れるように」
と、傘を無料で貸し出したのと同じく、北風も、
「兵庫に入港した船乗りたちが、雨に濡れずに帰れるように」
と、傘を無料で貸し出しました。双方に共通するのは、利用者への配慮でした。
返却率は、悪いどころか、自分の傘にしてしまう利用者が多く、晴れた日には、我が物のように、傘を軒先に吊るして干している家があったそうです。
「北風」
の名入り傘が干してあるのを見ると、番頭は、回収して回ったそうです。
それでも、雨の日には「無料で使ってください」と、新しい傘を補充して、山積みしていました。
すべては船乗りたちのためでした。
こうした、傘の無料貸し出しは、さらに200年たった今でいうところの、マーケティングそのものでした。
一体、なぜに傘がマーケティングなのでしょう?
地方を創生するマーケティング[シリーズ3/10]無料サービスで兵庫を活性化した廻船問屋の北風家
なぜ、無料で傘を貸し出すことが、マーケティングになるのか、北風家の広大な屋敷の中を、ご案内しましょう。
北風家は、廻船問屋です。
自前の持ち船で、国内貿易すると同時に、他の船から荷を買いつけ、小売へ卸す問屋も兼ねています。
他船から買いつけ、小売へ卸すのですから、船が兵庫に入港しなければ、問屋業が成り立ちません。
江戸時代の兵庫は、小さな湊で、諸国から来る船は、兵庫を通り過ぎ、すぐ先の大阪へ入ってしまいますし、それが幕府の政策でもありました。
逆に、大阪から出る船は、兵庫へ寄らず、行き過ぎます。兵庫は、大阪に近すぎるという弱点です。
「この弱点がある限り、兵庫の発展は、望むべくもない。兵庫が発展しなければ、北風家も発展せん。なんぞ手を打たねば」
と考えた北風荘右衛門は、船乗り達を徹底的に厚遇しました。傘の貸し出しは、その一環です。
船乗り厚遇策は、傘にとどまりませんでした。
風呂も無料です。風呂から出ると、膳が出て、酒まで付いています。これすべて無料。
そのまま無料で宿泊することも可能でした。
今でいうところのスーパー銭湯“オール無料”版といったところでしょうか。
もちろん、船乗り限定です。無頼の徒にまで、無料奉仕したわけではありません。
- 風呂タダ、
- 食事タダ、
- 酒タダ、
- 宿泊タダ、
全~部タダ。そんな温泉があったら、行きたいどころか、住んでもいいですよね(笑)
まだあります。
他国から船が入港し、壊れている部分を修理するのに、資金が無いとき、北風家では、無償で修理してあげました。そのため、
「兵庫に碇を下ろせば、食うのも、寝るのも、タダじゃ」
という評判が立ち、その評判は、船乗りから船乗りへと口頭伝播され、いつのまにか諸国の船は、兵庫へ寄るようになり、兵庫で荷をおろすようになりました。
これが北風家の戦略でした。
- 船乗りたちを徹底的に厚遇する
- 船が兵庫に集まる
- 船には荷物が乗っている
- 荷物は、北風家をはじめとする兵庫の問屋が買う
- それにマージンを乗せて売る
- 荷が富になる
- 儲かる
兵庫ぜんたいが潤う仕組み。現代の店舗にたとえると、
「お客さん、いらっしゃーい!」
と、声を枯らして叫んだところで、振り向きもされませんから、売れる立地に出店し、売れる商品を揃え、来店してもらうための作戦を立てます。
それが、店舗におけるマーケティング戦略。
マーケティングなど無かった頃、北風家は、マーケティングで、兵庫という地域を、活性化したのでした。
地方を創生するマーケティング[シリーズ4/10]北風家のマーケティング戦術「人が、荷が、情報が集まる」
- 無料の傘、
- 無料の風呂、
- 無料の飯、
- 無料の酒、
- 無料の宿
だけが、北風家の戦術ではありませんでした。
決定的なのが、情報です。
兵庫に住む船乗りたちも、他国の船乗りたちも、船から下りれば、北風家の風呂に入ります。
風呂に入ったあと、大広間で、食事と酒が振舞われます。
その大広間では、諸国の船乗りたちによって、見聞録が交わされています。
諸国の物価や、需要と供給の新情報が、毎日のように飛び交います。今でいう日本経済新聞のようなものです。
その情報をもとに、いち早く、北風家の船が、買いつけに出かけます。
買ってきた荷を、最も高く買ってくれるところへ海運しますから、とうぜん、儲かります。
情報戦を制した者が勝つのは、戦国時代も、江戸時代も、現代も変わりません。
こうして、北風家の廻船(海運)と、卸市(問屋)は、隆盛を極めました。
これぞ、先ずは兵庫湊を発展させ、ひいては自家を発展させる北風家の戦略でした。
そのために、船乗りを厚遇しました。情けは人のためならず…です。
戦略を実現させる戦術が、無料の傘であり、無料の湯であり、無料の酒であり、無料の宿でした。
それにより人が、荷が、情報が集まりました。
そうすることによって、兵庫湊が繁栄し、北風家も繁栄しました。
逆にいえば、北風家の無料政策がなかったら、人も荷も情報も集まらず、兵庫は寒村のままだったでしょう。
いかに豪商とはいえ、寒村にぽつねんとしているようでは、お山の大将ていどの富商に過ぎなかったはずです。
北風家の徹底ぶりは
「兵庫の北風か、北風の兵庫か」
と評されたことでも、その熱の入れようが窺えます。一時は、家産が傾くほどだったそうです。
それほど徹底した戦略戦術が、大阪港との差別化(違い)になり、優位性(強み)になり、船乗りたちにとっての便益になり、港としての価値を高めました。
差別化、優位性、独自性、便益、価値。これをマーケティングと呼ばずに何と呼ぶでしょう。
北風家の発展は、兵庫湊を繁栄させれば、自家のためになるというマーケティング戦略が功を奏した戦果です。
この前例にこそ、マーケティングで地域を創生する秘策が隠されています。
その秘策とは?
地方を創生するマーケティング[シリーズ5/10]人が集まるところに富も集まる
北風家のマーケティング戦略を、現代の地域活性化に当てはめてみましょう。
地方は衰弱しきっていて、国からの交付金がなければ、死に絶えてしまう地方自治体が数多くあります。
事実、日本創成会議の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)の推計によると、
「2040年までに、地方自治体の半分(約1800の市区町村のうち896自治体)が消滅」
するそうです。
消滅といっても、消えてなくなるわけではありません。
都市部への人口流出による過疎化によって限界集落となり、65歳以上の高齢者が、人口の半分以上を占める市町村だらけになるということでしょう。
稼ぐ若手も、稼げる仕事もないのですから、市町村の収入は低迷。収入が少なくても、医療費や、社会保障費は、着実に出て行くという構図です。
この問題を解消するには、国際社会で活躍する大企業の双肩に期待するのみならず、地域活性化によって、日本全土を豊かにする方向しか残されていません。
わかりやすくいえば、地域の学校を卒業した中・高校生が、親元から通える職場を作ることです。
残念ながら、今は、大学を卒業しても、故郷へ帰って暮らせる基盤すらなく、あるとしても、給与が異常に低いのが実情です。
やむなく都会へ出る、都市に人口が集中する、大都市だけが活性するという循環が繰り返されてきました。
そろそろ、一極集中型から、分散型へ舵を切り始めてもいい頃です。
そこで、北風式が参考になります。
人が集まるところに富が集まるのは、古今東西を問わず、その地における成功法則。
なぜなら、お金を払うのは(個人であれ法人であれ)、人だからです。サルは、お金を払ってくれません。
ということは、個人と法人を集めた市町村だけが生き残ります。
人を集める。これが、地方創生の戦略です。
日本の人口全体が減っているのですから、若い人口をブン取る作戦と言い換えて差し支えありません。
この戦いに勝った市町村は生き残りますし、負けた市町村は消滅します。
では、どのように人を集めれば良いのでしょう?
- 観光?
- 町おこし?
- リゾート開発?
それもいいでしょう。一過性のブームではなく、定着するならば。(映画「うどん」を御覧になった方は分りやすいはず)
では、一体、人を集める、地方創生マーケティング戦略とは?
地方を創生するマーケティング[シリーズ6/10]住民という顧客の流出を防止せよ
人を集めるのは、店舗における集客と同じことです。
企業間取引でいうところの、新規客増や、既存客の維持と同じこと。つまり、マーケティングと同じことです。
顧客の増加を第一に考えるマーケティングは、既存客の維持や、新規客の増加に、知恵を絞ります。
お客さんは人ですから、自分にメリットがあると思えば動きますし、メリットがなければ動きません。
メリットのことを、マーケティングでは、ベネフィット(便益)や、バリュー(価値)といいます。
北風家の例でいうところの、船乗りたちの利(傘や湯や酒)にあたります。
船乗りたちのような「人」は、個人と法人に大別されます。
ここでいう法人とは、企業のみならず「人が集まる組織」すべて。
要するに、企業でなくても、
- 病院でも、
- 学校でも、
- 神社仏閣でも、
- 任意団体でも
構いません。個人の集合体が法人ですから、法人が集まれば、個人も集まります。
個人からは住民税が、法人からは事業所税が入ります。
個人や法人が増えれば増えるほど、地方自治体は潤います。
反対に、過疎に代表されるように、人が減れば、住民税も法人税も入らず、窮乏します。
つまり、人を集めるとは、一過性の観光客を集めるのみならず、住民=定住者を集めるということです。
後述しますが、住民を集めることが、ひいては、一過性の訪問者も集めることになります。
その前に、大事なことを一つ。
住民を集める前に、今いる住民が定着するように図ることです。
いくら入ってきても、次々と出て行かれては、ちっとも増えませんからね。
定着するのみならず、出て行った人が帰って来れるようにして、入るを図り、出るを抑えます。
これにより、人口は増加します。これ即ち、マーケティングの基本中の基本である「顧客流出防止」
いくら住民が流入してきても、次々と住民が流出するようでは意味ありませんから、先ずは、現在の住民が流出するのを抑えます。
もう一方で、まるで新規の顧客を獲得するのと同様に、新しい住民を増やします。
地方自治体を活性させるには、以上の2つを戦略化するだけです。
地方を創生するマーケティング[シリーズ7/10]テーマパーク型の市町村は他都道府県から見てわかりやすい
「人を集めるには、働く場所が必要だべさ」
ごもっとも。
働く場所が必要ですから、これまで、企業誘致、官営起業、第三セクターなどが盛んに行われてきましたし、遷都や分都などの議論も活発です。
そうした難しい話は、難しい話が得意な専門家に任せて、マーケティングで地域を活性化する戦略戦術について述べていきましょう。
日本全国どこの地方自治体も、わが町の特徴といえば、
「自然が豊か」
を挙げる市町村が多いようです。まず、これが大~間違い
自然が豊かな地域は、津々浦々どこにでもありますから、何の優位性にも、差別化にもなりません。
まずは優位性を見つけ、他者と差別化しましょう。
それには、マーケティングのセオリーに則り、調査・分析から始めます。
筆者が開発した自己分析ツールのABCDアナリシスをご紹介しますと、
A)Advantages[アドバンテージ/良いところ]
わが市町村の長所は何か?(外部から見て)利益になるのは何か?
B)been[ビーン/してきたこと]
わが市町村は、何をしてきたか?どんな歴史や遺産があるか?
C)Can[キャン/できること]
わが市町村が出来ることは何か?できる能力があるのは何か?
D)Desires[デザイア/欲すること]
わが市町村は、どんな人がほしいのか?どうなりたいのか?未来展望は何か?将来性は何か?
の4点を検証しましょう。自己分析です。
4点を分析した結果、たとえば、
「わが町からは、横綱が輩出されている」
としたら見っけもの。
「わが町は、相撲の振興に務め、いずれは、世界に名だたる相撲王国になる」
という方向性を導き出すことができます。
その方向性が住民から承認されたら、相撲王国の立国へ邁進すればいいのです。相撲という事業領域の全てが商品になります。
ちょっと想像してみて下さい。
駅を降りると、あるいは、その町へ車で入ると、
「相撲の町○○」「どすこい!××村」
という相撲文字の幟(のぼり)が、幾竿も列を成して、風にはためいている…。- ちょんまげ姿の大柄な若者達が、至る所を闊歩している…。
- 大食漢のための大盛り食堂がある…。
- もちろん一般の人も食べて楽しめる…。
- ちゃんこといえば○×町との定評が日本全国に広まる…。
- メディアに載る…。
- 相撲のテーマ館がある…。
- 相撲博物館がある…。
- 素人でも力士気分を味わえる…。
- ビックサイズの服が売っている…。
- 両国のライオン堂のように、見るだけでも楽しい…。
- 引退力士と触れ合える場がある…。
- 引退力士の講演会が開催されている… 。
- 大学の相撲部が合宿に利用する…。
- 力士の養成学校がある…。
- 巨躯の人でも診察できる診療施設がある…。
- 体が大きくでも湯があふれない銭湯がある…。
- 相撲をテーマにした土産物屋がある…。
- 国技館の中のような相撲茶屋がある…。
- 国技を支援する人々が住みつき、大相撲の振興について話し合う…。
- 力士になりたくて移り住む人もいる…。
- まるで、ディズニーリゾートが好きで舞浜に住む住民のように、相撲が好きで移り住む人がいる…。
右を見ても左を見ても相撲づくし。
相撲のようなテーマのある「テーマパーク型の市町村」は、どういう町なのか、外国人にも理解できます。スモウレスラー・タウンです。
住む人や訪れる人の便益が分りやすく、分りやすいから、人が集まります。
人が集まれば、その体験が視察(お試し)になり、定住者が増えます。
定住者が増えれば、観光客も増えるとは、こうした好循環によります。
商売と同様に、人が、お金を運んできます。
土産を買ったり、食べたりして、お金を落としてくれますから、儲かります。
参考までに、ディズニーリゾートの賑わいには、来訪者のみならず、約2万人もの従業員も含まれます
テーマパーク型の市町村の従業員は、定住者ですから、職が生まれます。
定住者が多ければ多いほど、町は賑わい、賑わいが人を引き寄せ、海外からも観光客を呼び寄せます。
ちょっと突拍子もない案かも知れませんが、ディズニーランドができた頃も、既存の遊園地から見れば、
「そこまで、やるか?」
というほどエンターテイメントに徹底した遊園地でした。
その後の盛衰は、ご存知の通りで、ディズニーリゾートは勝ち残り、その他の遊園地は軒並み消えていきました。
このように、マーケティングの視点からすると、地方創生は、ビジネスも地域活性化も、同じ(顧客を増やす)こと一点集中なります。
地方を創生するマーケティング[シリーズ8/10]都市部に足りなくて地方に余りある土地を活用せよ
人が暮らすには、衣食住が不可欠ですから、北風式に、衣食住を提供することで、人を呼びます。
地方に、お金はありませんが、都会には、決定的に欠けているものがあります。
それは、土地。
東京をはじめ、都会には、これ(土地)が慢性的に不足しています。
それ(土地)があるということは、都市に対する地方ならではの大いなる強み(優位性)に他なりません。
そこで、移住者を対象に、広い庭つきの住宅と、軽トラックを、無償で有限貸与します。
仮設住宅のようなチンケな住宅じゃ差別化できません。都会では叶わない広い庭と、だだっ広い住宅が差別化になります。
気に入れば、期限終了後に、買い取ることも出来ます。
これで、住むのはタダの環境が整います。
次に、食べもの。
地方には、第一次産業を支える土地があります。食の基盤となる農業・林業・水産業の3本柱です。
「帰農せよ」
というのではなく、第一次産業を手伝うことによって、自給自足の生活基盤を整えます。
わかりやすくいえば、猫の手も借りたい時期の農家を、臨時に手伝って、食料を得られるようにします。
そうすれば、多忙な農家も嬉しい、手伝う人も嬉しい、人口が増えて市町村も嬉しい、3-Winになります。
これは、林業も、漁業も一緒で、技能が必要なようでしたら、体験学習から始めてもいいでしょう。
これで、住むのもタダ、食べるのもタダの環境が整います。
働き盛りの若い活気は、華やかですから、町が若やぎます。
残る問題は、商品経済のみ。服を買うにしても、車を買うにしても、お金が要ります。
また、第一次産業の手伝いだけでは、定職に就くことができず、まるでフリーター同然。
住民が増えても、税金が入ってこなければ、市町村経営が成り立ちません。
それを解決する2つの方向性があります。そのうちの一つを次で披瀝しましょう。
地方を創生するマーケティング[シリーズ9/10]売れるものを作って売れるように売るマーケティング
第一次産業という生産には、加工が伴います。これすなわち第二次産業。
たとえば、にんにくが特産物だとしたら、にんにく食品も、にんにく加工品も、町内で作ってしまいましょうということです。
他の都道府県や、市町村へ、法人税を払っている企業に作ってもらわなくても、自らの特産品を材料に、自らが加工し、商品化して、売ればいいのです。
販売、つまり、第三次産業です。
ニンニクを原材料にした健康食品を製造販売する企業が他府県にあるとしたら、その企業へ、ニンニクという原材料を売るのみならず、自らの産地でニンニクの健康食品を製造・販売すればいいのです。
第一次産業を素材メーカーとし、第二次産業を加工メーカーとし、第三次産業を販社として、一つの地方自治体の中で結合させ、完結させることで雇用を生み出し、人口を増やし、税収を高め、地域を活性化する作戦です。
製販在の一体化は、珍しくも何ともありませんが、梅と梅干のように、その方法を用いている地方自治体は、他の地方自治体に比べて、裕福であることは確かです。
原材料を生産する第一次産業と、メーカーとしての第二次産業と、販社としての第三次産業が一体化し、
「○○といえば××町」
というテーマのもと、そこに集う人々を潤し、延いては市町村を潤します。
これが、相撲のような「市町村まるごとテーマパーク化」と連動する二つ目の強みです。
「○○といえば××町」ですから、観光バスが停まります。
テレビや雑誌に載ります。全国的に有名になります。
ますます人が集まります。観光客のみならず、住みたいと思う人も現れます。
店舗の集客において、一度は店内に足を踏み入れさせるのと同じです。
売れる商品を作って、売れるように売るのがマーケティングです。
このように、自らの自治体を富ませたかったら、そこに集う人達を富ませること。北風式です。
とはいうものの、残念ながら、地方公共団体および第一次・第二次産業は、商品戦略に疎いのが実状。
商品戦略のみならず、プロモーション戦略にも疎く、どうやって売ればよいか分らず、ただただ一意専心に作るのみ。
一生懸命に作っては「良いものを作っているんだが、売れない」と嘆くのみ。
要するに、マーケティング戦略という考え方に乏しく、あっても、机上の空論を教え込まれ、「で?どうすればいいの?」と首をかしげています。
実例を一つ。
ある篤農家が、市町村主催のマーケティング講座に出席した時、講師のコンサルタントへ
「農作物を売る方法」
について相談したところ、
「ブランド野菜を作りなさい」
と言われたそうです。
「どうすればいいんだ?」
その篤農家は、途方に暮れたそうですが、肩書きの立派なコンサルタント先生が言うことだから、
「自分には無理だ」
と諦めたそうです。
勉強不足は仕方ありません、農業のプロであって、マーケティングのプロではありませんから、当たり前な話です。
だからといって、諦めることはありません、わかりやすくアドバイスできないコンサルタント先生から言われただけのことです。
難しいことを、分りやすく伝えるのが、プロの証。
肩書きだけ立派なシロートに教えてもらったところで、戸迷うばかりですから、わかりやすく教えてくれるプロに訊けばいいだけの話です。
[シリーズ10/10]土地を受け継ぎ承継するのみならず、住民を増やし、無縁仏を増やさない地方創生
人口の都市一極集中化が始まったのは、高度経済成長期の1955年から1970年頃で、バブル景気直前の1987年には再びピークを迎え、1985年(昭和60年)には、「ひとづくり、まちづくり等地域社会の活性化のための諸活動を支援する」一般財団法人地域活性化センターが設立されました。
地方創生は、ほぼ四半世紀前から、日本の課題だったようです。
それが、どうして、四半世紀も経って尚、解決できないのでしょう?
つまりは、誰のための地方創生なのか?ということです。
おそらく「住民のため」との答えが返ってくるでしょう。
では、住民とは、誰のこと?
- そこに古くから住む民?
- 議員?
- 公務員?
- 利益を誘導したい人?
- そこで暮らしたいと思う人?
誰のための地域創生なのか?決めるところから始まりますマーケティングは「誰」が最も重要だからです。
たとえば、筆者の許に
「これを売りたい。売ってほしい」
という相談が寄せられますが、だいたい、自分の利益を追うがタメの自己満足商品が多く、
「これは、誰々のタメに、売れなければ」
と思える商品は皆無に近い。当然、そういう商品は、筆者が携わらなくても、淘汰され、消え去ります。
我利(自らの利益)を追うのは、人として当然にしても、お客さんは、
「あなたの利益のために、お金を払うのではない」
ことだけは確かですよね?自分のために、お金を使います。
の地域も同様に、誰のために市町村を経営しているのか?住民や観光客は、誰のためにお金を払うのか?ということです。
マーケティングで「顧客とは何か?」の定義を問いかけるように、
「住民とは何か?」の定義を突き詰めるところから、地域創生が始まるのではないでしょうか?
そこで、時の政権に問います。住民とは、一体なんでしょう?
まさか「そこに住む人」なんて浅慮な定義が返ってくることはないことを祈ります。
最後に、第63代北風荘右衛門と同じ時代を生きた御影屋松右衛門の言葉を紹介して、筆を置くことにします。
「人として、天下の益ならん事を計ず、碌々として一生を過さんは、禽獣にも劣るべし」
(人様の利益になることを考えず、人様の役に立てぬまま一生を過ごすのは、人間として、鳥や獣にも劣る)