販売員と営業職の違いは攻めと待ち
1.資料請求があったら売り込む営業
ある日、ひと休みしようと、カフェのテーブル席に座ったところ、隣のテーブル席に、
- どう見ても、営業マンと思しき、スーツ姿の若い男性が一人。
- その横に、見習いと思しき若い女性が一人。
二人の向かい側には、近所に住む男性でしょうか?ぼさぼさ頭の中年で、スウェット上下にサンダル姿の男性が一人。
聞こえてくる話の内容は、どうやら、分譲マンションの売買。
聞き耳を立てていたわけではありませんが、売り込むのに必死な営業マンの声が大きく、否が応でも耳に入ります。
スウェット男性が一を訊くと、答えは十倍になって返ってきます。スウェット男性が一を疑問視すれば、
「そんなことはありません」
という反論が十倍になって返ってきます。まさに、一を訊いて十を知る(笑)ですね。意味は違いますが(笑)
聞くともなしに聞いていて、内心、
「説得や反論よりも、同じ疑問を持つ立場になって、一緒に、考えてあげればいいのに」
と苦笑しきり。東京の分譲マンションは、どんなに安くても数千万円以上ですから、パソコンを買うのとはワケが違います。
そんな高額商品を、説得されて買うワケありませんし、ましてや、議論など、もっての外。
百歩譲って、議論に負けて買ったとしたら、契約後に、
「買わされた」
と後悔する危険性がありますし、 そうなると、紹介なんて期待すべくもありません。高額商品のみならず、紹介は、最強の新規営業ですからね。
その芽を自ら摘んでしまうのですから、マンション営業として、どうでしょう?
あなたが彼らの上司なら、どう指導します?
2.販売と営業の違い/販売は代金と商品の交換
それから三十分くらい経った頃、ぼさぼさ頭のスウェット男性が一言、がまんの限界という感じで、
『まあ、今回は、資料を請求しただけですから、買うかどうかの判断は、また後日ということで』
と席を立って、さっさと帰っていきました。
驚きましたねえ。
「なんと!資料請求後に、初めて会っただけで、数千万円の分譲マンションを、売ろうとしていたのか!」
と、思わず目が点になりました。買いたそうなら、売り込まなければなりませんが、買いたくもないのに、三十分以上も拘束するなんて、押し売りじゃナイんだから(苦笑)
誰でも知っている大手マンション・デベロッパーの営業でさえ、いきなり、商品を売るセールスなんですね。
「いや、営業マンなんだから、商品を売るのは、当たり前だろう」
って?
ごもっとも。 商品を売って、売上を増やすのが、セールスの仕事の一つです。 ところが、ひとくちにセールスといっても、販売活動と営業活動は違います。
販売の目的は、売上金ですから、
- 今すぐ
- 誰でもいいから
- 理由はどうあれ
- 商品を売って、
- お金に代えよう
とします。 自動販売機しかり。
今すぐ売るのですから、一年先なんて、鬼が笑います。そんなの、お客さんじゃありません、ハイさようなら。
売れりゃ誰でも構いませんから、欲しい顧客が誰なのかも、欲しくない顧客が誰なのかも、関係ありません。お金が入れば、ハイさようなら。
当然、末永く付き合っていきたい顧客が、どういう顧客なのか、知る必要ありませんし、 それを知って、一般顧客の中から、優良顧客を増やす必要もありません。誰でもいいから、売れれば、ハイさようなら。
このように、商品と、代金を、交換する仕事が、販売です。
大根のように、商品と、プライスカードを並べておけば、はたまた、訪問してパンフレットを広げれば、
お客さん自身が価値を見出して
買っていきます。
是この通り、販売だけなら、アルバイトでも出来ます。
数百万円の年収で、営業マンを雇用するまでもありません。
3.販売と営業の違い/営業は信用を得て顧客を増やす
例示したマンション営業は、営業活動ではなく、販売活動でした。
件の営業マンは、営業部に所属し、営業部の名刺を持ち、自他ともに営業マンだと思い込んでいる、販売員だったようです。なぜなら、
- 会社が、分譲マンションの広告費を負担し、
- 広告を見て資料請求してきた見込み客に、
- 売り込むだけ
の販売活動なら、アルバイトやパート等の非正規従業員にもできますよね。
雇用リスクの高い正社員が担当するまでもありません、代りは幾らでもいます。
売っている商品を、代金と交換するために、販売するのですから、
- 資料が欲しいと言われたら?資料を送った後、売り込む。
- 見積りが欲しいと言われたら?見積書を作った後、売り込む。
- 注文が入ったら?売る。
売れたら終了だもの、こりゃ楽です。プロの営業マンが売る必要ありません。
一方、営業の仕事は、違います。プロの営業マンは、会社や自分の
信用を得て、顧客を増やすサービス業
です。信用には、
- 会社の信用
- 商品の信用
- 営業マンの信用
の三つがあります。販売は、会社(1)と、商品に信用があれば、あとは、代価と交換するだけですが、
営業活動には、営業マンの信用
が欠かせません。 なぜなら、営業活動は、人と人の付き合い(人脈)が重要だからです。
ビジネスは「カネとコネ」と言われますね?
販売活動はカネのため、営業活動はコネのため。
カネとコネあってのビジネスです。
これは、企業間取引ならば分かりやすいでしょう。
人間関係が出来ていれば、ちょっとした無理も融通し合えますし、時と場合によっては、指値を教えてくれることもあります。
指値といっても、談合ではありませんよ?
「これくらいの価格差だったら、御社(あなた)から買いたい」
と言わしめる営業マンに限って(筆者のクライアントでは)優秀な営業マンです。
4.営業とマーケティングの違い
顧客を増やす営業の仕事と、商品と代金を交換する販売の仕事は、段階的に異なります。
何を売って、何を増やすか?により、販売か?営業か?決まります。
販売は、来店を待ち、商品を売り、売上を増やす交換作業で、
一方の営業は、信用を得て、顧客を増やすサービス業です。
販売=営業ではありません。
営業 > 販売
の不等式で、販売活動は、営業活動に含まれます。
営業活動はプロモーションの中に含まれ、プロモーションはマーケティングの中に含まれますから、
マーケティング > プロモーション > 広告+広報+営業+販促 > 販売
の構図で、広義(マーケティング的)には、社会という味方を増やす活動です。味方の中には、
- 推薦者(自分は買わないけれど、推薦してくれる人)がいます。
- 紹介者(自分は買わないけれど、新規客を紹介してくれる人) もいます。
- 媒介者(自分は買わないけれど、記事に取り上げてくれる人) もいます。
- 仲介者(自分は買わないけれど、あなたの代りに売ってくれる 人)もいます。
味方というよりも、支持や風評といったほうが分かりやすいかもしれません。
味方が増えれば、顧客も増えますし、顧客が増えれば、商品も売れます。
それは、良い所ばかりを見せることではありません。差し障りのない範囲で、弱点も見せる必要があります。正直に商売するということですね。
5.売れる時期を待つ間も活動し続けるのが営業
冒頭のマンション営業の例でいえば、
「家を買う時になったら、あなたに必ず声をかける」
と言ってもらえるようにすることです。
そりゃあ売る側にとっては、マンションAだけが、大事な商品マンションかも知れませんが、
買う側にとって、マンションは、マンションBもマンションCもありますし、一戸建ても、あります。
しかも!資料請求があったからといって、今すぐに買うとは決まっていません。
今すぐに売れるとは決まっていないのですから、
売るのをやめたらどうですか?
売るなという意味ではありません、売れる時期を待つのも、営業活動です。 販売は、売る時だけの接触ですが、
売れる時期を待つ間も、活動し続けるのが営業
です。営業活動しなければ、いつしか忘れ去られてしまい、「あなたから買う」とは 言ってもらえなくなりますからね。
「買って下さい」
「買って下さい」
と、しつこく付きまとうことではありませんよ? サービスを売ることです。サービスに満足してもらうことです。 そのサービスとは、
「どうせ買うなら、あなたから買う」
「知り合いが買うことになったら、あなたを紹介する」
と言ってもらえる営業マンになることです。
そのために、すべきこと?
優秀な営業マンに秘訣を訊けば
「特別なことなど何もしていません」
と答えるように、ありきたりなことを、営々黙々と、地道に続けるのみ。
では、健闘をお祈りしております。
