強みを作って破って離れる守破離の経営
1.経営者にとって一番大事なのは?
TVドラマのルーズヴェルト・ゲーム(2014年)第4話で、香川照之さん演じるジャパニクスの諸田社長が、いかにも憎々しげなドヤ顔で、唐沢寿明さん演じる青島製作所の細川社長へ、次のように言い放ちました。
- 諸田「経営者にとって、一番大事なのは、何でしょうか?」
- 細川「は?」
- 諸田「それは…会社をつぶさないことだ。小学生にでもわかる!」
では、一年間に、いくつもの企業が、つぶれているでしょう?
- 100単位?
- 1,000単位?
- 10,000単位?
事業者数(法人以外を含む)は、2009年に420万でしたが、わずか3年後の2012年には、35万が減り、385万になりました。
一日平均、274事業者づつ(個人事業含む)減っている計算になります。
民間のTDBやTSRの統計では(事業者数ではなく、法人数では)年間、1万社前後が倒産しています。
小学生にでも分かる、経営者にとって一番大事なことを、わずか一年で、1万人の社長が、理解できずに倒産しています。
経営し続けるのが、どれだけ大変か、お分かりになるでしょう。
倒産原因は様々(とりわけ資金不足)でしょうけれど、本稿のテーマである強み(優位性)に当てはめてみると、倒産したのは、そもそも、
- 強みがなかった
- 強みを守りきれなかった
- 強みを破れなかった
- 強みから離れられなかった
の4つに絞られます。強みの守破離です。
2.もしも強みの守破離がない経営だったら?
それぞれ見ていきますと、
0)そもそも、強みがなかった
これは、士業を始めとする資格系の例が分かりやすいでしょう。
たとえば、
「税理士になったから、税理士事務所を開こう」
と夢見たところで、
- ライバルの税理士は、二倍に増えている
- その反面、クライアントの数は、半減していますので、
- LからSサイズへ縮小しているパイの奪い合いになること必至ですし、
- 顧客の側から見れば、税理士の先生は、ゴマンといます
から、税理士の
資格を持っていることは、何の強みにも魅力にも
なりません。ただ単に、
「資格があれば、その仕事に就くことができる」
という許認可の問題です。
それ(資格)を、強みだと勘違いしてしまうと、独立することはできても、継続が困難であることは誰の目から見ても明らか。
独立開業するのと、開業し続けるのは別問題
であることに気づいていなかったのは、本人ダケだったりします(=主観の罠)
ところが、独立してしまったら、もう後戻りできません。
遅きに失した今からでも、強みを創り、アピールするのみ。顧客を増やすのみです。
1)強みを守りきれなかった
これは、特許等の知的所有権に守られていない全ての業種に当てはまります。
儲かる商売には、みんな群がりますからね、新しいライバルが必ず現れます。
SWOTや3Cで現状の脅威-ライバル-を分析するだけじゃ不十分なのはこのためです。
ライバルは、現状のライバルのみならず、未来のライバルも、脅威になるライバルです。
群がらなくても、
新しい売り方が出現
してきます(例:アマゾンドットコムの通販と、ブックオクの出現で、淘汰が進む新刊書店。カフェの台頭で減り続ける喫茶店。千円カットetc)
新しい商品に取って代わられる
こともあります(例:レコードとCD、フロッピーとUSBメモリ、フィルムとデジカメ)に、
ちょんまげが絶滅したように、時代は動いていますからね、新しきは、いずれ古きになり、「そういえば、そんなものがあったっけ」と忘れ去られます。
新しい売り方や、新しい商品だけが、脅威ではありません。エリア内の導線上に同業他店が出店してくれば、間違いなく売上が減りますし
(分かりやすくいえば、コンビニAの隣にコンビニBが出店してくれば、間違いなく、来店客数は分散されますし)
エリア内に回転寿司や宅配寿司が出店してきたことで、廃業を余儀なくされた老舗の寿司屋さんが近所にありました。
- 老舗であることや、
- 地域密着
であることは、お客様にとって、何の強みでもなかった証拠。このように、今の強みが、永久に強みたり得る保証など、ドコにもありません。
永久に強みたり得ると思っているのは、自社ダケだったりします(=主観の罠)
2)強みを破れなかった
これは、黙っていても売れる強い商品を持っている中小企業に共通しています。
黙っていても売れるのですから、その強みを破る必要がありません。
破る必要がありませんから、現状を維持しようとします。
現状維持ですから、破ろうとする者を嫌います。たとえ、上場企業であっても、です。こうして、
社名を掲げた村社会
が出来上がります。村には、不文律の掟があります。
掟を破ろうとする村人は、村八分にされます。最悪、追放です。
かくして、村の平和は保たれ、みんな仲良く暮らしましたとさ。
めでたし、めでたしと思っているのは、社員という名の村民ダケだったりします(=主観の罠)
3)強みから離れられなかった
これは、特許などの知的所有権に守られた技術系の企業や、伝統が優先される企業に多いようです。
フィルムから離れられなかったイーストマンコダックや、ポラロイドが典型的。
一方、同じフィルム業界の富士フィルムは、フィルムから離れ、新しい強みを創造しました。
複数の強みを持つ真の多角化に成功したのです。
強みから離れようとしても、離れられなかった実例
を一つ。長野県にあるメーカーの社長が、創業数十年目にして、初めて、無形財の商品を開発しました。有形財の製造技術という強みを破ったのです。
長野日報に載ったほど話題性がある新しい強みでした。無形財の商品を持つことは、社長の長年の夢だったそうです。
さあ、それを売り出そうとすると、社内の誰も協力してくれませんでした。
それもそのはず、メーカーと非メーカー(有形財と無形財)の考え方の違いは
「同じ日本人か?」
と思えるほど違うことがあります。
同じ社内とはいえ、社内は業界人の集まり
です。業界には業界の常識があります。
その常識が、顧客にとっての非常識と分っていても、社長といえど、全社を率いて、業界の常識から離れるのは、難しかったようです。
なぜなら、社内の全員が、まるまる、業界の一員だからです。
3.お金を払ってくれる人=社外の人に強みを訊け
もしも守破離がなかったら?もうお分かりでしょう。
「経営者にとって、一番~大事なのは、何でしょうか?それは『会社をつぶさないこと』だ。小学生にでもわかる」
そう、倒産です。
中小零細企業だから、つぶれるんじゃありません。大企業といえども、つぶれます。
企業規模の大小は関係ありません、守破離がなければ、三ちゃん企業から有名企業まで、つぶれます。
つぶさないためには、儲けることです。
儲けるために、強みを創り続けるには?
社外や、業界外の声に、耳を傾けることです。
なぜなら、
お金を払ってくれる人は、社内ではなく、社外にいる
からです。マーケティングです。マーケティングは、リサーチに始まり、リサーチに終わります。
そして、社内と、業界の、常識を一つ一つ炙りだし、引っくり返してみることです。たとえば、ハウスメーカーが、
- 社長「売上目標を達成せよ」
- 営業部長「家を売って来い」
- 営業社員「家を買って下さい」
で売れたとして、あとで欠陥住宅だと分かり、購入した家族が一家心中しても平気でいられますか?「お客様は、家が欲しいんじゃない、幸せな暮らしが欲しいんだ」ということです。
極端すぎる例にしても、欠陥住宅であることを伏せて売る会社があるのは事実ですし、それを好しとする経営者がいるのも事実。売上至上主義者です。
そういう経営者に仕え、そういう会社に勤め続けるのは、もちろん個人の自由ですが、欠陥住宅であることを伏せて売るのが、その会社の常識ならば、引っくり返すか、あるいは、社会から追放するほうが、世のため人のため。
4.強み(優位性)と違い(差別化)と独自性が個性になる
法人にとっては売上金、個人にとっては給与が必要なのは、猿にもわかります。
問題は、
- お金そのものが欲しいのか?
- お金を払う人が欲しいのか?
ということです。
お金が欲しければ、強引に売る、だまして売る、売れたらサヨナラになるのも肯けますが、
人が欲しければ、強引に売らない、だまして売らない、売れなくても付き合う
という、真反対の売り方になります。
「そんな甘っちょろいコト言ってちゃ売れねーんだよ」
という反論もありましょう。が、その反論は、強みが無い証拠でもあります。つまり、
「ウチにゃ強みが無いんだから、普通に売ってちゃ、売れねーんだよ」
とゲロっているも同然。
強みが無いということは、他社との違いもなく、価値もありませんから、売買の必要性がありません。
もし、買うとなったら、お客さんは、他から買うことができます。
それを阻止するために強引に売る、しつこく売る、だまして売る、人を不幸にしてでも売る、
売れてカネさえ入ればハイさいならという経営方針です。
「それでイイ」という会社や経営者は、お客さんを不幸にしてでも、カネ儲けに走ればいいでしょう。
偽装でも、隠蔽でも、談合でも、何でも好きにして下さい、世間が許すなら。
「いいや、お客さんの不幸の上に、自分たちの幸福は成り立たない」
というのであれば、まず、お客さんを幸せにしてあげましょう。インサイトを探りましょう。
「満足の質と数」 - 「不満の質と数」
で、幸福かどうか決まります。
お客様を幸せにすることで、自分たちも幸せになりたいなら、顧客満足目指すことです。
わかりやすくいえば、
- 「売ってやる」
- 「買ってやる」
というエラソーな態度にペコペコ頭を下げることなく、気持ちよく、笑顔で売買できるということです。
5.ライバル各社それぞれに数百万の強みが存在するはずはない
「ウチはドコにでもある商品を売っているんだけど、どうやって強みを作ればいいの?」という疑問もありましょう。
ライバルと同じものを作り、同じものを売っていれば、不思議に思って当然の疑問です。
強みなんて、そうそう幾つもあるもんじゃありません。
生き残っている385万の事業者それぞれに、385万もの強みがあるでしょうか?
385万もの強みなんか、ありません。ライバルと同じ強みを共有している場合がほとんどです。それらは、どうやって生き残ってきたか?というと、
極論すれば、人材
です。営業部ならば、営業マンの人となりが、最大の強み。なので、同じ営業部でも、売れる営業マンと、売れない営業マンに分かれます。
不思議だと思いませんか?同じ会社で同じ商品を売っているのに差がつくのですよ?
接客業ならば、接客係の人となり、つまり、心くばりが、最大の強み。
これは旅館も美容室も整骨院も葬儀社も飲食店も役所も病院も関係ありません。
代価を払ってくれる人に気を配るのは当然
ですよね?
特に、無形物を商っているのならば、代価を払う人と、払わない人を同等に扱うわけにはいきません。そりゃ不公平です。公平に差別しましょう。総合すると、
コンタクト・ポイント(顧客と接する係)の人となり
が、強みになります。
ライバルに無い強みは、内側から見えません、外側から見えます。
たとえば、著名人など、外側から見ていると、凄いと思う人も、親しくなって内側に入ると、大したことのないように見えてくるものです。
身近すぎて気づかない。それが、
強みだから、リサーチ
しましょう。締めくくりになりますが、時代は動いています。5~6年で変わります。
モノづくりニッポンを支えてきた工場が海外へ流出し、
- 正規雇用が減り、
- 少子高齢化が現実になり、
- 人口が減少し、
- 企業数が減り、
- 店舗も減り、
- 新規の顧客が増えにくくなった今、
既存客を大切にしなければ、お金を払ってくれる顧客は、離れていくばかりで増えませんし、増えてもスグに離れていくでしょう。
だから、顧客という人を大切にすることです。顧客に受け入れられることです。
それには、魅力的な人(個人と法人)で有り続けることです。
見聞を広げ経験値を高めましょう。
人を惹きつけるのは、人なのですから。