メガネを売るなら運転免許証を売れ[後編]引越し屋さんのコアベネフィット

マーケティング

メガネを売るなら運転免許証を売れ

前編より続く

脈絡のないように思えますが、メガネの価値(の一つ)は、運転免許の更新日に発揮されます。

更新日には、視力検査があるからです。

検査に通れば、合格。落ちれば、不合格。

もちろん、落ちるわけにいきませんから、視力が0.7以上かどうか?は、特に職業ドライバーにとって、死活問題。

検査が無ければ、視力0.6でも支障ありません。普段の日なら、0.7以上でなくても、路上や公共の場に出なければ、運転することは(操作は)できます。なので、

運転免許の更新日に限りメガネの価値は発揮

されます。このように、価値は、時(TPO)によって異なります。

24時間、365日、必要な価値は、二つしかありません。空気と健康です。それ以外は、必要な時に、必要なだけあれば、充分。

旧約『顧客の十戒』その十 私に 24 時間必要なものは、空気と健康だけです。それ以外は、必要なときに、必要なだけあれば充分です

なので、

  • 商品には、価値を発揮できる頃合が大切ですよ~
  • メガネの場合、その一つが、運転免許の更新日ですよ~
  • 他にも、価値を提案する機会は、知恵と工夫で、ナンボでも、ありますよ~

ということでした。しかし、売る側は、

24時間365日、自分の商品を売りたい

ので、会うたびに、

  • 「買って下さい」
  • 「買って下さい」
  • 「買って下さい」
  • 「買って下さい」

と連呼するばかり。売りつけられる側としては、うんざり(笑)

だからといって、売りつけるのをやめてしまえば、いつしか忘れ去られ、顧客をライバルに奪われてしまう危険性がある。

だから、用も無いのにDMを送る。用を付け足すために、決算セールや、創業祭、初売り、歳末フェアのチラシを配る。

それで売れるなら結構なことです。販促費以上の利益を得られるのであれば。

ちなみに、年賀状や、暑中見舞いの※BEP(損益分岐点)は、マイナスです。損のみですから、そもそもBEPがありません。

※BEP(ブレイク・イーブン・ポイント)とは、総広告費(販促費)を、粗利益単価(売上単価-仕入原価)で割った数。損益分岐点数を、総発送数で割り、100をかければ、率。要するに、DMに幾ら使って、いくら儲かったんじゃ?という指標。

「挨拶したからカネをくれ」なんて(笑)有り得ませんよね?

挨拶状なのに、暑中見舞いや、年賀状に、商品を載せる。そんな挨拶状、受け取る側から見れば、暑中見舞いや年賀状の皮を被ったDMです(笑)

「まーた、売り込みかよ」ってナもんです。

宛名がラベルだった日にゃ(笑)一目瞭然。そうして売り込もうとすれば、嫌われる。売ろうとしなければ、忘れ去られる。

どうせ、売り込んでも売れないんだったら、

売り込むのをやめたらどうですか?

売り込むのをやめて、どうすればいいか?というと、二つの方向性があります。

  1. 一つは長期接触営業。お客さんの役に立つ情報を届け続けることです。
  2. もう一つは、マーケティング。商品にしろ、販路にしろ、新しい価値を創造することです。

前者の一例として、メガネの場合、免許更新日の一ヶ月前に、

「もうすぐ、運転免許の更新日ですね。メガネは大丈夫ですか?視力検査だけなら無料ですので、お気軽に、お立ち寄り下さい」

というDMの例を(前編にて)挙げました。

意味の無いビジュアルなど載せる必要ありません。ヘッドコピーと地図と運転免許のイラストだけで充分です。

売り込むだけなら、ダイレクトメールは、人件費よりも安く済みますので。

余談ですが、地方の小企業へ行くと、広告やチラシに、無意味なビジュアル(写真やイラスト)を載せては、

「チラシやDMの反応が悪い」

と嘆いている担当者に遭いますが、DMにしても、チラシにしても、作戦(戦術)ですから、綿密にプランを練り上げます。

しかも、紙数やサイズ等、物理的に制限があるのですから、余計なものを載せる隙はありません。NZのアイフローに従って、ここから読み進み、読み終わったら、どうして欲しいか、最後のアクションコールまで、一貫性があり、淀みなく流れるプランが必要です。

それが、短ければ短いほど、伝わりやすくなります。現実には、ハガキで充分な情報量を、わざわざ、開封率の落ちる封筒で差し出す企業もありますが。

短くするには、コピー同様、考え抜く必要があります。考え抜かず、テキトーに立てた作戦が、失敗するのは、当たり前なのですね。次に、

引越屋さんの場合の新しい価値の創造(マーケティング)

メガネの他に分かりやすく、引越屋さんを例に挙げましょう。

店舗と同様に営業エリアがあり、エリア内の限られたパイの奪い合いになります。エリアマーケティングです。

ありがちな戦い方は、価格戦略。

戦略どころか、単なる値引きが現実で、荷物を移動させる本質(=用途+解決+欲求)で、月並みな商品(引越しサービスの品質)を売っています。

値引きで仕事を獲得する価格戦略のまま、価格を訴求するのであれば、単身者がターゲットになるでしょう。単身ならば、荷物は少量ですから、

  • トラックのみのレンタルや、
  • 運転手の代行や、
  • 手伝いの人材派遣

もラインナップでき、組み合せて選べるようになります。値引きが価格戦略ですと、

安く引っ越すのが戦略目標

になりますから、それに応えられるサービスが商品になります。たとえば、

  • 主力商品A)引越しパック(今まで通りの引越しサービス) +
  • 商品B)レンタカー(依頼人ご本人に、引越し先まで、運転して頂きます)
  • 商品C)運転代行(ドライバー 兼 作業員一名あたり)
  • 商品D)手伝い作業員(作業員一名あたり)
  • 商品E)あと片付け(現場に残る清掃員)

等々。ところが、家族の場合は、最低でも二人分以上の荷物があります。それを宰領するのは誰か?というと、亭主が休日でもなければ、主婦が中心になるでしょう。では、

主婦のインサイトは何か?

主婦のみならず、女性は、自分の美しさを追求しますから、引越作業なんかで

汚れるのはイヤ
疲れるのもイヤ

疲労は、美しさを損ねるからです。面倒なのもイヤ。三十代も後半に差しかかると、早い人は、更年期に差しかかりますので、なにもかも億劫。

しかし、安さが売りの引越会社へ頼むと、面倒で汚れるし、

荷造りは自分自身で

やらなければなりません。部屋も汚れます。雨の日となると、悲惨な状況になります。引越後は、新居からホテル等へ逃げたくなるでしょう。ということは、

「新居には住みたいけれど、引越はイヤ」

という矛盾があります。その矛盾を解決したところに依頼者さえも気づかずにいる「あ!それイイ!」という驚き(商品コンセプト)があります。

引越しを売るなら気配りを売れ

その気づきを具現化して急成長したのが、アート引越センター。低価格で戦うよりも、新しいサービス(品質)で戦う道を選びました。

たとえば、

  • 作業員が新居へ入るときは、新しい靴下に履き替える
  • 女性向けの引越プランは、作業員が全員、女性スタッフ
  • 掃除、整理整頓、収納、不用品の処分まで、すべて代行(エプロンサービス)

等々、業界初の新サービスを開発し、次々と導入しました。その後の成長ぶりは、周知の通り。

引越しを売るなら、気配りを売れ

ということでしょうか。

引越という商品は、何ら変わっていません、すべて、引越の付加価値です。
引越会社が、安く引越せる、価格という価値にこだわっていると、
「安くなくてもいいから、

かゆいところに手の届く

引越サービスがほしい」と、高い費用を払ってもいいという人の存在に気づくことはありません。いつまで経っても、

低価格で、限られたパイを奪い合う

ことになります。それは、それで、いいのです。ただし、それだけで、いいんですか?ということです。

更なる価値が付加されていれば、価値は高くなり、値段が高くても売れます。低価格で競争しなければ、売上も利益も大きくなります。

つまり、「どのような用途で欲求を解決するか?」の解は、アート引越センターの場合、「地域で一番安く」ではなく、

ターゲットのインサイトを突いた商品(サービス)の開発

でした。

「安く」か「新サービス」か、どちらの路線を選ぶかは、経営者の胸三寸です。さて、あなたがマーケティング担当者なら、どんなコンセプトで、引越しの新商品を開発しますか?

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