メガネを売るならクルマを売れ
「メガネを買う人は、視力を補いたくて、メガネを買う。レンズやフレームが欲しくてメガネを買うのではない」
ご存知、コア ベネフィット(core benefit)です。
※ベネフィット(benefit) = その商品を使うことで得られる利便性や恩恵
ベネフィットにコアが付いたコア・ベネフィットとは、便益(ベネフィット)の中核のこと。
眼鏡のコア・ベネフィット(中核便益)は「見える」こと
よりよく見えることが、メガネの核ですから、
- 軽いレンズや
- カッコいいフレームや
- 見栄え
は、コア ベネフィットの周囲(フリンジ)に位置するフリンジ ベネフィットです。
メガネの例を続けますと
「よりよく見えるようになりたい」人が「よりよく見るために」メガネを買います。
これぞ、マーケティングが「品物ではなく、価値を交換する」といわれる所以。それを詳しく理解するために、
価値なるものが構成されるまでの過程
を細分化してみましょう。メガネという商品には、まず、
・メガネをかける
という用途があります。まかり間違っても、メガネを尻に布く人はいません(笑)
次に、
・よりよく見えるようになるため
という解決を求める原因は、
・よりよく見えるようになりたい
という欲求に基づきます。
これを並べると、
欲求→解決→用途→メガネ(製品)
という過程をたどることがわかります。
商品の価値を引き出す方法が用途提案
つまり、価値とは、金銭で取引されるメガネという商品である以前に、
- 耳にかけるという用途があり、
- かけることによって、見えるという解決があり、
- 見えるようになりたいという欲求
があります。以上の3つには、
- メガネ(商品)
- かける(用途)
- 見える(解決)
- 見たい(欲求)
との流れがあり、この流れの前半が、
・メガネという、商品の品質について。
後半の3つが、
- メガネをかけ
- 見たいものが
- 見える
という、メガネの本質、すなわち、ベネフィットについて。まとめると、
- 品質(有形) = 商品
- 本質(無形) = 用途 + 解決 + 欲求
で、本質に基づく品質が、有形の商品になります(商品=品質+本質)
このように、用途提案が、マーケティングの王道なのは、
商品の価値を引き出す方法
だからです。
マーケティングはリサーチに始まりリサーチに終わる
本質(用途 + 解決 + 欲求)を探るには「見えるようになりたい」という欲求のままで考察を終わらせず、
どうして見えるようになりたいのか?
という本音まで突き詰めたとき、正体が見えてきます。たとえば、
- 運転免許の更新が近いから
- テニスが上手になりたいから(ラケットでボールを的確に速く捉えるため)
- 映画の字幕を読みたいから
といったポジディブ動機の他にも、たとえば運転免許を突き詰めれば、
- 雨の日の運転が怖いから
- 交通事故はイヤだから
- 眼鏡不使用で捕まるのはイヤだから
- 人をひき殺したくないから
といった、恐怖から逃れたいネガティブ動機もあるでしょう。これが、
メガネを買うインサイト(本音)
です。ここまで追究したとき、どのようにメガネを売ればよいか、見えてきます。たとえば、免許更新の一ヶ月前に、メガネ店から、
「もうすぐ運転免許の更新ですね。メガネは大丈夫ですか?」
といったハガキを発送するプロモーションが考えられます。
そうすると、免許の更新日を知っておかなければなりません。
どうやって知るか?というと、お客さんから聞く他ありません。
リサーチです。
なにも難しいことではありません、欲しい情報を網羅したアンケートを作って、書いてもらうだけです。
たかがアンケート されどアンケート アンケートから匂い立つ売り臭
実話ですが、先日、メガネを新調しに、初めてのメガネ屋さんへ行った時のこと。
「こちらのアンケートに、ご記入ください」
と、A6判くらいのアンケート用紙を渡されたので、内心、
「ほほう?免許の更新日とか、好きなスポーツとか、趣味とか訊ねるのかな?」
と
(なかなかヤルな!このメガネ屋さん)
と期待してアンケートをのぞき込んでみると、
- 氏名
- 住所
- 年齢
- 生年月日
- 電話番号
という5つの基本属性のみ尋ねるアンケートでした。
思わず(勝手に)ガッカリして、職業病か(苦笑)どうか、つい、
「メガネを買うのに、どうして、住所を書くんですか?」
と、訊いてしまいました。すると、
- 「はい。DMとか、送らせて頂こうと思いまして」
- 「どんなDMですか?」
- 「セールの情報ですとか」
- これを聞いた筆者のこめかみ血管プチッ(笑)
- 「あのさ。今、メガネ買ったばっかりだよ?次に買うのは、いつだと思う?」
- 「年内か、来年かと」
- 「年内?おたく、一年も持たない耐久性のメガネを売っているわけ?」
- 「いえ、そんなことは」
- 「じゃあ、年内って、どーゆーこと?」
- 「………」
- 「答えられないのなら、住所は書かなくていいよね?」
- 「はい」
- 「次に、電話番号。メガネを買うのに、なんで、電話番号が要るの?」
- 「お電話で、ご連絡を差し上げることもあろうかと」
- 「どんな時?」
- 「メガネが出来たら、お電話でお知らせします」
- 「いらないよ。出来あがりの予定日になったら、取りに来るから」
- 「はあ」
- 「じゃあ、電話番号も書かなくていいね?」
- 「はい」
- 「次に、年齢と生年月日。メガネを買うのに、なんで、年齢と生年月日が要るの?」
- 「………」
- 「答えられないのなら、年齢も生年月日も書かなくていいね?」
- 「はい」
- 「次に、氏名。メガネを買うのに、なんで、氏名が要るの?」
- 「出来上がったメガネを、お引き取りに来られる際、お名前が分かりませんと」
- 「シリアルナンバーさえ分っていればいいんじゃないの?」
- 「………」
- 「答えられないのなら、氏名も書かなくていいね?」
- 「はい」
- 「結局、どの設問も、おたくが顧客情報を得ようとしているアンケートだったってことがわかったよね?」
- 「………」
- 「日本人は素直だから、疑いもせずに書くけど、こんな無意味なアンケートで顧客情報を取って、売り込みのDMを送りつけるわけでしょ?」
- 「………」
- 「顧客情報が漏れたら、どう対処すんの?危機管理、できてる?」
- 「さあ。あ、いえ」
- 「お客さんは、バカじゃないから、たかがアンケート1枚から、顧客へ対するおたくの姿勢を読み取るよ?」
- 「………」
- 「というわけで、このアンケート、答える必要なしということで、いいかな?」
- 「はい」
イヤな客だと思われたでしょうね~(笑)
いい加減に作ったアンケートならば、やらないほうがマシという実例でした。
価値を高めるセールスプロモーション
アンケートを設計した経験のある方ならば、ご存知だと思いますが、A4判一枚のアンケートを作るのに、最低でも、2~3時間かかります。
それだけ、綿密に考え抜いて作りますから、
「どうして、この質問に、答えなければならないの?」
という反問には、即答できます(できるはずです)
プレミアムなしで、顧客情報を得るのは、そんなにも大変なことなんです。とくに東京では。
だから、いい加減なアンケートを見かけると(自分に影響があるアンケートならば)つい聞いてしまう職業病(苦笑)
そうして、考えに考え抜いて得た顧客情報を用い、
- また来てもらうための店舗地図や
- 期間限定のクーポンや
- 「この機会にメガネを新調しようかな」と思わせる、動機を喚起する提案
等々をハガキ1枚で実現できます。
ハガキ1枚(数十円)で、他店へ流れるかも知れなかった既存客が、リピートしてくれるとしたら、どんなに費用対効果が高いでしょう。
逆にいうと、効果的なプロモーションを展開するのであれば、アンケート程度の調査と分析は、当たり前。
安さで売るのもいいのですが、それだけでは、利益が圧迫されて、真綿で首を絞めるようなものですからね。
安さ以外で戦うには、本質を追究し(分析し)、価値を高めることです。
価値を高めるとは?
「もうすぐ、運転免許の更新日ですね。メガネは大丈夫ですか?」
と、顧客にとっての価値をタイムリーに提案することです。
お客さんに、24時間必要なのは、空気と健康だけのなのですから。
そうはいっても、
「具体的に、どうすればいいんだろう?」
と悩む方が多いでしょう。
では(機密保持のため実例を挙げると支障があるので)、似て非なる例を創作しましょう。