家具店なのにカフェレストラン?お客様を人間あつかいするIKEA
[レポート1の1]家具を買わなければ帰って?
一度は家具売場に足を踏み入れたことがあるでしょう。店内には、とうぜん、家具が並んでいます。
コンビニのようなパターン化された導線が家具店それぞれにあるのかどうか存じませんが、だいたい、入口には、
- 視界を確保すべく背の低いソファや、テーブルなどが置かれてあり、
- 壁際や奥まった位置には、背の高い食器棚や、ブラインドや、カーテン
が配置されています。
家具売場なのだから、家具が並んでいるのが当り前といえば当り前ですが、見方を変えれば、
「来て!見て!触って!買ってって!」という無言のメッセージ
が発信されていることが分かります。
ご存知のように、家具売場は広いため、カーテンひとつの家具を選ぶにしても、けっこう疲れます。
ベッドやソファを選ぶために、繰り返し、立ったり座ったりしていると、さらに疲れます。
ヒンズー・スクワットでトレーニングしているも同然です(笑)、そりゃ疲れます。
人間ですから疲れて当然
ですが、座って休める場所が小さなベンチ椅子だったり、店舗によっては一ヶ所もなかったりします。
大きな家具店になると、休憩所の代わりに、ソファなどの商品に、座っている人を見かけるくらい。
(家具店へ行く機会があったら、そういう視点で店内を眺めてみてください。意外な発見がありますよ)
ということは…来店客へ発信している暗黙のメッセージは、
[選択肢-1] たった今、買って!休まずに、見て!触って!
[選択肢-2] 買わなかったら、買うとき、来て!休むなら、家に帰って休んで!
わかりやす~く、意地の悪い見方をすれば、
「買わなければ、帰って!」という無言のメッセージ
になっています。それが、買う側にとっても、売る側にとっても、当り前な空間になっています。それが日本の従来からの家具店の常識でした。
その常識をブッ壊したのが、IKEA(イケア。英語の発音でアイケアとも)
[レポート1の2]家具店なのに買わなくてもいい?
家具にもよりますが、家具は、安い買物とはいえません。十万円単位の商品がゴロゴロあります。
さらに家具は、付き合いの長い商品ですから、慎重に、迷いながら、選ぶでしょう。インテリア好きにとっては、選ぶこと自体が楽しみ。そうなると、
家具店内で、選択行為に費やす時間は、自然と長く
なります。疲れて、ちょっと休もうとしたところで、ベンチ椅子がある程度か、または、皆無なのは、なぜでしょう?
そのタネ明かしが、
「買ったら帰れ」
「買わなかったら帰れ」
の常識に則って店舗が運営され、
「買ったら帰る」
「買わなかったら帰る」
の常識に則って来店客が行動するからでは?
そこに、
「いま買ったが、もっと買うために、他の商品も、見て回る」
とか、
「今は買わなくても、次回に買う可能性のある商品を、じっくり検討する」
という考え方が欠落していることがわかりますね?
ディズニー・リゾートの成功法則を紐解くまでもなく、
滞留時間は消費金額に比例
しますから、居れば居るほど、
「あれも買う」
可能性も、
「もっと買う」
可能性も高まります。
なのに「帰れ」とはコレいかに?
常識とは、恐ろしいもので、従来からの常識を破壊して考えるならば、快適な休憩所が家具店に必須であることは容易に理解できます。
つまり、店舗は、いかにして「いてもらうか」が重要。書店に、立ち読み用の椅子どころか、カフェが併設されて久しい今、
「買ったら帰れ」
「買わなければ帰れ」
という店舗運営は、前時代的といっていいかも知れません。
[レポート1の3]家具を買わなければ休んで?
そこへいくとIKEAは異色。入口から出口まで、家具で埋まっているのが当たり前な家具店とは異なり、入口に、家具がありません。
南船橋店の場合、一階入口がホールになっていて、正面にエスカレーター。左前にトイレ。右前にキッズルーム。
たった、それだけ。
家具店なのに、家具は皆無
です。余談ですが、キッズルームといっても、スペースの一角を区切って玩具を置いただけの簡易施設ではなく、ホールと遮断した独立する大きな施設になっていて、資格を持った保母さんが常駐している模様。
エスカレーターを昇ると、ショッピングカートがあり、その奥にベッドが展示されています。
最も異色なのは、エスカレーターを昇った右側に、カフェ&レストランの入口があること。
商品の家具より、カフェが先の店舗設計になっています。
カフェではコーヒーとスイーツが、レストランではスウェーデン料理が楽しめます。
一口にカフェ&レストランといっても、かなり広く、席数は未公表ながら、ゆうに300席はあるでしょう。混雑する土日の昼でさえ着席可能です。この
カフェ&レストランがイケアの戦略
と筆者は分析していて、事実、
「疲れたら、何度でも休んで、心置きなく、家具を楽しんで下さい」
とのメッセージを(パンフレットか何かで)発信しています。今ではどうか分かりませんが。
日本の従来からの家具店のような「買ったら帰れ」「買わなかったら帰れ」というメッセージとは正反対に、
「買っても、買わなくてもいいから、とにかく、居て」
という無言のメッセージが発せられています。
導線の入口に、家具ではなく、カフェ&レストランを配することで「ここに休める場所がある」と記憶するようになっています。
実際、家具売り場を、ひと巡りするのに2時間かかります。じっくり見て回ったら、半日はかかるでしょう。まるで家具テーマパークです。
この考え方を、たとえば薬店へ応用するとしたら、わずか2~3席でもいいから、
(冬なら)葛根湯が飲める喫茶席(喫茶コーナー)
を設けられます。
それを業界の非常識と解釈するか、お客様には常識と解釈するかによって、行動に差が出てくるでしょう。
[レポート1の4]家具を買わなければ楽しんで?
またしてもディズニーリゾートの例ですが、ショッピングモールのイクスピアリは、その名(ikspiari=体験)の通り、ディズニーリゾートへ入らなくてもディズニーリゾートを体験できるショッピングモールです。
「買わなくても(ディズニーランドやディズニーシーへ入らなくても)体験するだけで楽しい」
「体験して満足すれば、また来たくなる(シーやランドにも入りたくなる)」
「来園さえすれば、お金を使う」
これとイケアも同じで、
「買わなくても、家具を体験するだけで、楽しい」
「体験して満足すれば、また来たくなる(家具がほしくなる)」
「来店すれば、お金を使う」
ようになっていることがわかります。それでいて、
商品単価はディズニーリゾートの比ではなく
一回の買物で数万円、数十万円、数百万円が費やされます。
もちろん、家具店として「圧倒的な品揃え」や「低価格」など正統な優位性は掲げていますが、これも、分析してみると、戦略的であることがわかります。(その戦略は、商品を買ってみれば分かりますが、ここでは次ページへ譲ります)
ディズニーリゾートやイケアと、日本型の店舗は、店舗に対する考え方が全く異なっているようです。どう異なっているかというと、
商品を並べる場所が店舗なのか、お客様が居る場所が店舗なのか
という違い。さて、あなたが行きたくなるのは、
「買ったら帰れ」「買わなかったら帰れ」
の店舗でしょうか?それとも、
「買わなくてもいいから、休んでって。楽しんでって」
の店舗でしょうか?どちらが居心地よく、どちらへリピートしたくなるでしょう?
ちなみに(単なる家具店の)イケアには、ディズニーリゾートのような、コアなファンがいます。
ここに掲載された写真は、そのファンのサイトから許可を得て掲載してあります。
あなたの店舗には、コアなファンがいますか?